古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
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古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
 現状の課題解決はもちろん、中・長期的な工場のあり方の検討と、その実現に向けた取り組みを行う。それが、工場の管理者の務めだ。しかも職位が上に行くほど、厳しくこのことが求められる。そして、それ故に事務所や会議室での業務比率が増えていく。そうこうしているうちに生産現場から遠くなってしまいがちだ。自身が生産現場の担当者から班長、係長、課長と階層を経ているために、あえて生産現場に直接口を出さないように自制している管理者も少なくない。

 一方で、管理者の仕事は、生産現場が判断できない事項や、経営的な視点で生産現場に指示すべき事項など、いわゆる判断業務の比率が多くなる。ここで注意すべきは、生産現場から離れていると生産現場の姿(事実)が見えにくくなり、その結果として正しい判断ができないような状況になってしまう危険性が出てくることだ。

強い工場づくりのポイント

 工場の管理者は、徹底して「3現主義」を貫くべきだ。ある年齢層以上であれば3現主義という言葉は、工場の中では常識の範疇に入るもので、説明の必要はないだろう。しかし、筆者がコンサルティングをしていると、特に中堅層以下にこの言葉が浸透していないことに驚かされる。

 3現主義とは、「現場」「現物」「現実」という3つの「現」を重視する姿勢のことだ。ものづくりにおいては、何よりもまず現場に足を運び、現物を直接確認して、現実をベースに議論することを重視せよ、という教えである。筆者はさらに、「3直」という言葉を付け加えた、「3直3現主義」という言葉をよく使っている。何かあれば、[1]直(ただ)ちに現場に行く、[2]自分で直接現物を見る、[3]目の前の現実を冷静に直視する、これら3つの「直」を付け加えているのだ。

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 3現主義で忘れられない筆者の苦い経験を紹介しよう。事業会社で品質部門長をしていた時の話だ。事務所で仕事をこなしていると、生産現場にいる作業者から電話が入った。状況を聞くと、「ああ、またあの問題が出たか」と大体の事情が分かったので、電話で対応を指示した。すると、その作業者はいきなり「ここにきてものを見てみろ! なぜ奥の院でふんぞり返っているのか!」と激怒したのだった。

 多忙故に事務所での作業を中断したくなかったという理由に加え、昔からの長い付き合いの作業者だったので、つい軽く対応してしまったことは否めない。激怒されたことに戸惑いながら生産現場に行ってみると、自分が想像した事象とは全く違うことが発生していた。私が電話で指示した内容は適切ではなかった。筆者には、「この工程のことは誰よりも知っている」という過信があった。その結果、現場に行かず、現物も見ず、現実から目をそらすことになり、徹底すべき3現主義を怠って誤った判断をしてしまったのだ。