古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
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古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
 何度も繰り返すが、「作業標準書」は、その会社や職場の持つノウハウの塊である。このノウハウがどれだけ蓄えられているかが工場の強さのバロメーターである、と言っても過言ではない。しかし、どれほど良い作業標準書が出来ても、その内容が確実に作業者に展開されていなければ、その役目は果たせない。

 仮に、作業標準書という体裁の書面がない場合でも、作業の手順だけではなく、作業を行う上で注意する必要があるポイントや注意点、作業上のコツが、口述伝承ではなく、書面(すなわち形式知)として存在していなければならない。そして、何より重要なのは、それを教育にきちんと活用するということだ。

 ところが、現実の職場では作業者に対する「教育・訓練」が極めておろそかになっている。確かに、ISOなどのマネジメントシステムを導入している会社では、教育・訓練を必ず実施している。その実施記録として、誰(指導する側)が、誰(教育を受ける側)に、何(教育や訓練内容)を教えたのかという教育や訓練の記録も残っている。

 だが、ここで問いたいのは、教育や訓練の「実態」だ。本当に作業のポイントや注意点、そして作業上のコツを、教育を受ける側である作業者が「腹落ち」するまで、すなわち、正しく理解して納得するまで教えることができているだろうか。

強い工場づくりのポイント

 教育や訓練の前提は、まず作業標準書があることだ。仮に作業標準書がない場合でも、品質を確保するための作業方法や手順、そして作業をする際の注意点やコツなどが明確になっていなければならない。その上で、教育した内容が必ず、教えられた側の作業者の腹に落ちたかどうかを見極める必要がある。

 OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)における作業者教育では、「教えて、やらせてみて、できれば合格」という流れをよく見かける。教えられた直後であれば、見よう見まねであってもある程度はできるものだ。作業手順を理解していなくても、作業上の注意点を覚えていなくても、黙々と作業してとにかく良品が出来れば作業者認定は合格…。そんなやり方では、品質を継続して維持することは難しいと考えるである。

 もう1つのポイントは、教える側が教えることのできる環境づくりが必要であることだ。実は、工場において、教育・訓練は作業に比べて優先順位が低い場合が多い。「教育をしなければ、すぐに生産が止まってしまう」といった切羽詰まった状態でない限り、「忙しい」という理由で教育や訓練が十分に行われないことが当たり前になってしまっているのだ。

 今日、明日はそれでもよいかもしれない。だが、教育・訓練を行わなければ、近い将来の生産に必ず影響が出る。そのために、教える側が確実に教育することができるような環境(時間の付与など)を整備するのが管理者としての重要な責務だということを肝に命じてほしい。