古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
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古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
 何度も言うが、「QC工程図」は、品質を確保するための重要なツールである。その作成過程で洗い出した作業上の注意点やポイントを、どのような作業方法で実現するのか具体的に示し、作業者に正しく理解してもらう。それができなければ、QC工程図は十分な機能を果たすことができない。そのためのツールが「作業標準書」である。ところが残念なことに、作業標準書が必ずしも実際の現場で広く活用されているとは言えない状況だ。

 前回の「あるある事例」に示した通り、「我々ができることを、なぜわざわざ紙に書かないといけないのですか」という作業者からの反発は、多くの工場管理者が直面する課題だ。作業標準書がなくても、今日の生産や明日の生産にはとりあえず対応できる。すると、生産現場が作業標準書を作成する必要性を全く感じないのは無理もない話だ。

 ある程度は必要性を認識している場合でも、「正直なところ、手間がかかって面倒だ」「どんなふうに作業標準書を作成したらよいのか分からない」といった具合に、想定される作成労力の大きさに尻ごみする意見もよく上がる。さらに、「作業標準書を作成した方が良いのは分かるが、必要な労力を考えると費用対効果が数字で明確に見えないので、作る気がしない」といった、もっともらしい逃げ口上を聞くこともしばしばだ。

 今回は、このように抵抗が大きくなかなか活用に至らない作業標準書を、いかに活用していくかについて考えてみよう。

強い工場づくりのポイント

 前回は、作業標準書の目的は、今の作業を紙に書く(明文化する)だけではなく、別の側面として2つのポイントがあることを解説した。1つのポイントは、ベテランが持っているノウハウを、会社共通のノウハウ(会社全体の技術資産)にすること。もう1つのポイントは、会社が継続的な生産活動を続けるために、作業上のノウハウやツボ・コツといった類の技術資産を洗い出して次の世代に伝承していくことだ。

 作業標準書は、作業の手順や順番を記すだけでは不十分。次のようなことを考えることに意味がある。
・品質を確保するために、どのような作業方法が望ましいか
・その理由はなぜか、
・具体的にどのように作業するのか
・そのときの注意点あるいは作業上のポイントは何か
 まさに、「我が社の作業現場が持つさまざまなノウハウを洗い出すこと」が重要なのだ。作業標準書は、そのアウトプットという位置付けである。

 加えて、もう1つ大切なことがある。どれほど内容が充実した作業標準書を作成しても、それをベテランから新人まで、その作業に従事する人が正しく理解しなければ意味がないということだ。従って、「読めば分かる」ことが作業標準書の必須条件である。

 読めば分かるというのは、全くの素人を連れてきて読ませても分かるという意味ではない。基本的な用語などの知識や最低限必要な作業スキルを備えた人が、作業標準書に書いている通りに作業をすれば、間違いなく良い品質のものができるという意味だ。ところが、部品や工具類の名称や、工程で必須となる用語の意味などの基礎的な教育をせずに、いきなり「作業標準書を読んで覚えろ」という指導をしている企業が目に付く。これはさすがに無理がある。

 作業標準書の作成は、一般に経験者であるベテラン作業者が担うことが多い。ベテラン作業者の知識や技術の水準は高い。従って、「自分にとっての常識は、他の人にとっても常識である」と考える傾向がある。しかし、作業者の中には初めて知る人もいるのだ。この点に気をつけながら作業標準書を作成する必要がある。