検査が必要な場所には「課題あり」

 まず、「検査のムダ」について誤解がないように補足しておく。法令で定められた検査など、検査をしなければ顧客に製品を出荷できないような検査もある。それは当然ながら求められる検査を確実に行わなければならない。検査を実施しなければ、そもそも製品に市場価値がつかないからだ。顧客からの要請を受けて特別な費用を得て行う検査も、やはり検査を実施することを前提に製品を出荷することになる。納入仕様に定められた出荷検査などはこの部類に入る。

 では、そのような要請がない工程内での検査は、どのように考えるべきだろうか。顧客の側に立って考えてみよう。仮に「A品」と「B品」があるとしよう。「A品」は、工程内で何度も検査を繰り返して生産されたもの。「B品」は、特に工程での検査をせずに生産されたものだ。両品で仕様や特性には変わりがないとする。こうした条件下で、この製品を生産しているメーカーから「A品は検査を丁寧に行うことで工数がかかっているため、値段は高くなる」と言われたとしたら、あなたはどう判断するだろうか。恐らく、品質が同じであれば、検査を省いた価格の安い「B品」を購入するはずだ。

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 検査を行っても、その結果として物の価値が上がらなければ、その検査は顧客にとっては全く意味がないのだ。そもそも、良品購入が原則の取り引きの中で、「良品を出荷するために検査を追加したので、その費用を請求しよう」という考えは、多くの場合、顧客には受け入れられないだろう。「検査をしなければ出荷する製品に不良が混ざってしまう」などという主張は、買い手側からすると、「それはそちら(メーカー)の問題でしょう。なぜ我が社(買い手)がその費用を負担しなければいけないのですか」と断られるに違いない。

 仮に検査しなくても、設計や工程を徹底して改善することで100%の良品を造ることができれば、検査は不要だ。「不良が生じない設計」や「不良を造らない生産工程」にすれば、検査を実施する必要がない。逆に言えば、検査が必要ということは、設計や工程に何らかの改善点があるということを示している。つまり、検査が必要な場所には「課題あり」ということなのだ。

 では、課題を解決しないまま、検査で問題を回避し続けるとどうなるだろうか。検査というのは、最も即効性のある出荷品質の確保方法だ。従って、検査を追加すれば手っ取り早くトラブルを解決することができる。だが、安易にこの方法に頼ると、別のトラブルが発生した際に、また検査を追加して乗り切るということが常態化してしまう。

 本質的な問題を解決しないまま、検査という「一時しのぎの薬」に頼ると、真に改善しなければならない病巣(問題)を放置することになる。こうした事態に陥ることを防ぐために、強い工場をつくろうとする管理者は、「検査はムダだ」「どうすれば検査なくすことができるのか」と、常に考え続け、言い続けることが必要なのだ。

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