古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
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古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
 「物が流れる工場を目指すべきだ」。私がこう指導すると、次のように反論されることがある。「物が流れる工場とは、コンベヤーで流れ作業をしながら大量生産をしていたひと昔前のものづくりの考え方だろう」と。確かに、今の時代は「多品種少量生産」が多い。かつてとは違い、コンベヤーで物が次々と流れる、絵に描いたような大量生産の工場は減ってはいるだろう。

 他にも、「我が社は一品一様。1つとして同じ物は造っていないので、流れのある工場とは無縁だ」という意見や、「我が社は多品種少量生産である上に、注文の変動も激しいので、流れのある工場にはなり得ない」といった意見に出会うこともある。確かに、こうした工場ではその時々の作業の変動が激しく、「物の流れ」を実感しづらいのは事実だ。

 今回から数回に渡り、工場に流れをつくる方法を紹介していく。「物が流れる工場」の具体像を提示しながら、これらの疑問を解いていきたい。

強い工場づくりのポイント

 まず、ここで「物が流れる」とは、コンベヤーで物が流れるように、「見た目」で物が移動しているさまを言うのではない。「物が流れる」とは、工場のプロセスの動きがよどみなく進んでいることだ。プロセスがよどみなく進む中で、原材料や仕掛品などの「物」がよどみなく動くのであって、プロセス抜きに物が動くことを指すのではない。

 プロセスがよどみなく進む工場づくりのポイントは、「必要な物」を、「必要なタイミング」で、「必要な量だけ」供給することだ。必要な設備に、必要な原材料や副資材が、適切なプロセスで供給される。そして、そのプロセスが完了すれば、完了品は速やかに次のプロセスに送られる。そしてまた、新たな原材料や副資材が速やかに供給される。大量生産であれ、少量生産であれ、一品一様の個別生産であれ、この考え方は変わらない。こうしたポイントを押さえて実践できている工場を「物が流れる工場」と呼ぶのである。

あるある事例

 ある企業の機械加工の職場は、ほとんどのメンバーが経験豊富な40歳代後半から50歳代の作業者で構成されていた。多くの機械加工の職場がそうであるように、この工場でもメンバーは職人気質だった。自らの職場のことを誰かに指図されるのを好まず、自分たちの好きなように物を配置していた。

 例えば、作業者のA氏は、どのような作業を依頼されても対応できるようにと、さまざまな工具を持っていた。しかも、自分が担当する加工機の近くに工具箱をいくつも置いていた。ところが、A氏がさまざまな工具を持っていることを知っている職場の誰かが、A氏の工具箱から工具を勝手に借用し、そのまま返さないことがあった。すると、たくさんの工具を持っているのに、A氏は必要なときに欲しい工具が見当たらないという事態が頻発する。そこで、A氏は幾つかの工具を予備として用意し、自分の個人用ロッカーに鍵をかけて隠していた。こうして、工具が見つからないときには予備の工具を使って作業に支障が出ることを防いでいたのだ。

 また、作業者のB氏は生産計画で指示された複数の加工に対し、数日先の予定まで考慮していた。そしてそれを前提に、作業効率が最も高くなる作業の順番を勝手に決めていた。これに対応するには、数日先の加工に要する材料まで自分が担当する機械の周辺に用意しなければならない。実際、B氏はその通りにしていた。従って、B氏が担当する加工機の周辺には、加工前の材料が入ったパレテーナ(金属かご)が山積みになっていた。B氏は日々、天井クレーンやフォークリフトを操作し、パレテーナの山から必要な物を探し出しては加工作業を行っていた。

 この職場を受け持っていたのが工場長のC氏だ。赴任直後にこうした職場の様子を見たC氏は、「これでは工程が順調か否かも、作業が予定通りか否かも、生産現場に異常があるか否かも、全く分からない」と危機感を覚えた。しかし、頑として自分たちの考えを変えようとしないメンバーを相手に有効な手を打てずにいた。それでも、ここ数年、年配のメンバーの退職と若手の配属などで世代交代が進みつつあることから、C氏はここら辺で何か手を打ちたいと考えるようになった。