古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
[画像のクリックで拡大表示]
古谷 賢一=ジェムコ日本経営、本部長コンサルタント、MBA(経営学修士)
 工場運営をしながら日々「改善」を進めるには、管理のための適切な評価指標が必要だ。さまざまな評価指標が活用される中で、設備総合効率など設備視点での生産性指標や、作業効率など人視点での生産性指標は特によく使われている。不良率や直行率といった品質指標など、QCDに関する評価指標もよく使用される。

 これらは工場管理上の適切な評価指標だが、どれも利益の最大化、すなわち損益計算書の数値を良くすることを狙ったものだ。これらの評価指標を活用し、PDCAサイクルを適切に回すことで、工場が生み出す利益を増やしていくことが管理者としての使命だ。しかし、利益を出しさえすれば「強い工場」と言えるのだろうか。

強い工場づくりのポイント

 生産性を示す基本的な式を見てみよう。インプット(投入)とアウトプット(産出)は、例えば投入工数(労務費)と売上高であったり、投入材料量と完成品量であったりと、企業や職場によってさまざまに定義される。しかし、基本的な定義は投入と産出の比で表わされる。これを踏まえると、生産性を高めるにはアウトプットを増やすと同時に、インプットを減らすことが重要になる。

[画像のクリックで拡大表示]

あるある事例

 ある工場は活動目標に設備の稼働率の向上を掲げ、さまざまな改善の取り組みを行っていた。工場長のA氏を筆頭に、所属するメンバー全員が加工速度の向上や、段取り時間の短縮、設備の一時的な停止や空転である「チョコ停」の削減といった改善テーマに取り組み、設備の稼働率は活動前に比べて大きく改善した。

 設備の稼働率が高まったことにより、生産能力が大きく向上して、より多くの受注に対応できるようになった。工場が生み出す利益は前年度から大きく増加した。この活動の成果を実感したA氏は、次の目標として「究極の稼働率」を掲げて活動に邁進していった。幸い受注は好調で、稼働率の向上は、そのまま受注対応力の向上につながる状況だった。

 しかし、A氏が「究極の稼働率」を目指し始めたころから、工場では別の問題が発生するようになった。稼働率を高めるために効率の最優先が叫ばれ、徹底して設備の停止をなくすことが絶対的な正義になってしまったのだ。

 例えば、ある生産ラインでは、生産計画が頻繁に変わるために計画の組み替えに伴う段取りの負担増に悩んでいた。原材料をその都度、資材課から払い出してもらうと時間がかかる。そこで、生産する可能性がある原材料は全て生産ラインの横に置いておくことにした。また、いったん払い出された原材料は、その後で生産計画が変更されても資材課に戻さないことにした。生産ラインの横にそのまま置いておき、次の生産の機会に使うようにしたのだ。

 こうした取り組みで、設備の稼働率はさらに高まった。ところが、その一方で工程内には原材料や仕掛かり品が山のように積み上がり、人の動きが煩雑になっていった。加えて、資材課は、本当は足りている原材料であるにもかかわらず、原材料を手配する手間が増えた。払い出した原材料が増加したことで、資材在庫を充足しなければならないと考えたからだ。

 設備稼働率の飛躍的な向上という目覚ましい成果を挙げたはずのA氏だが、ある時、本社の経理部門から「運転資金が増加している。どういうことか」と叱責を受けた。生産量は増えており、それに伴って売上高も増加している。改善活動は進み、利益率も高まっている。A氏は叱責される理由が分からなかった。「運転資金の増加だって? 工場はきちんと回っているし、生産は拡大して利益も出している。何がまずいのだろうか?」