あるある事例・「なぜその改善をしなければならないのですか?」

 前任の事業部において工場改革に腕を振るった新任の工場長A氏は、別の事業部の工場の立て直しを任された。早速A氏は、問題視されている生産現場をつぶさに見て回ることで、すぐに改善できる点、じっくりと腰を据えて改善をするべき点など、多くの着眼を得て、手ごたえを感じていた。A氏は、現状の把握をした後、生産現場を取り仕切っている数人の課長を呼び、工場をつぶさに見て感じたことやそれを受けてこれから取り組むべきことを説明して、実行に向けた助力をお願いした。

 ところが、前向きに工場を良くしていきたいと考える工場長のA氏に対し、その意見を聞いた課長たちの反応はとても冷ややかなものだった。「工場長、私はその必要性を感じません」というやる気のない意見や、「現状のままでも特に問題はないはずです。なぜその改善をしなければならないのですか?」という敵意丸出しの反応もあった。A氏は、生産性の一層の向上に必要だということや、作業ミスの要因を徹底してつぶし込むことの必要性など、いくつもの理由を上げて説得を試みた。しかし結果は変わらず、「生産は目標を達成しています、何か問題ありますか?」、「ミスの起こる可能性がゼロとは言いませんが、今現在、ミスはゼロです。問題はありませんよね」といったやる気のない言葉が返ってくるばかりだった。

 加えて、作業性や管理面の強化を狙って仕事の手順を変える提案をしても、同様の反応だ。「私たちは、今の仕事のやり方がベストだと思っています。せっかくある規則やルールを変えてまで、何かを改善する必要性は感じません」といった具合である。A氏は課長たちのこうした反応から「典型的な大企業病」を感じ取り、今後の改善活動が険しいことを痛感した。

大企業病をどう克服するか

 組織風土が根深くからむため、大企業病を克服することは容易ではない。しかし克服のための鍵は、「なぜ現場が変化を嫌うかという理由を把握すること」にある。生産現場が変化を嫌う理由は、「変化によって自分の慣れた仕事を変えなければならないことへの不安があるから」だ。今の慣れ親しんだ仕事を変えるのは勇気がいる。しかし、実際に指導する側がやって見せて「確かに楽になりそうだ」といった感想を持ってもらうことが、不安の払しょくには効果的だ。

 生産現場が変化を嫌うもう1つの理由に、「単に新しいことを覚えるのが面倒だから」というものがある。現状に問題がないのに、なぜわざわざ面倒なことをしなければならないのかという思いは理解できなくもない。だが、そのままでは何も変わらない。怠惰な人の意識を変えることは並大抵なことではないが、意識を変えてもらわなければならない。

 かつて、明らかに面倒くさそうにする作業者に対して、「面倒なことは分かりますが…」と切り出したところ、その作業者は「誰も面倒とは言ってない。ただ忙しい中で新しいことを覚えろと言われても無理だ!」と返してきた。そこで私は、「では、○○をお手伝いします」と忙しいことを軽減する提案をしたところ、彼はしぶしぶ変化を受け入れた。説得の切り口を変えるというのは時に有効な手段となり得る