ムゲンコンボの手塚 武です。この連載では「ソシャゲの秘密」をゲーム企画や開発の観点からいろいろ語っていきたいと思います。一般向けにやさしく話していくつもりですので、お気軽にお付き合いください。

 突然ですが、みなさんはゲーム制作で最も大事な作業ってなんだと思いますか?

がっかりゲームはなぜ生まれるのか
がっかりゲームはなぜ生まれるのか

 コンセプトやストーリーを作る企画? ゲームシステムの開発? キャラクター作り? もちろんどれも大事ですが、最も大切でゲームの成否を最も大きく左右するのは、最終的な仕上がりを決める「最終調整」の工程だと僕は考えています。

 似たようなゲームシステム、コンセプトのゲームなのに、ヒットしたりヒットしなかったりしますよね。一体なぜ?と思うかもしれませんが、パッと見はよく出来ていても、調整が不十分だと、ゲームはつまらなくなってしまうのです。そんな「ガッカリゲーム」がなぜ生まれてしまうのか。今回は大事な割には軽視されがちな調整についてお話してみたいと思います。

「このキャラは大パンチ何回で敵をKOできるの?」

 カプコン時代に僕が制作していた対戦格闘ゲームの開発の終盤にこんなことがありました。

 最終調整の段階に入り、出荷も目前という段階になっているのに、ゲームがどうも面白くないのです。攻撃力のバランスが悪いのだろうと考えて「数値(パラメータ)」をいろいろ変更して確認し直すのですが、どうもハマらない。いっこうにゲームが面白くならないのです。しかもその理由に見当が付かない。

 僕は焦りました。どうしたらいいんだと、ゲーム機の前で頭を抱えているとベテラン企画マンの先輩がフラっと現れました。そして

 「手塚くん、このキャラは大パンチ何回で敵をKOできるの?」

と、一言だけ言って去っていったのです。

 「?」。最初は疑問が浮かんだのですが、それで僕ははたと気付きました。どういう戦い方をして敵を倒すのかというプロセスの想定が不十分だったのです。そのため僕は、ジャブ(小パンチ)の攻撃力を5、ストレート(中パンチ)は10、フック(大パンチ)は15といった風に、あまり考えずになんとなくパラメーターを決めてしまっていました。

 キャラクターの体力は150くらいに設定していました。つまりこの設定だと大パンチを10発当てないと敵キャラを倒せない計算になります。しかし、そのゲームでは各キャラの移動速度を速めに設定しており、大振りの大パンチは簡単にかわされます。パンチが当たらないのです。パンチが当たらないからKOまで時間が掛かります。結果的に、お互い決定打を決められないまま、時間切れ寸前までダラダラとプレーが続くかったるいゲームになってしまっていました。