ムゲンコンボの手塚武です。この連載では「ソシャゲの秘密」を中心にゲームのプロデュースや企画のことをいろいろ語っていきたいと思います。一般向けにやさしく話していくつもりですので、お気軽にお付き合いください。

 今回のテーマはスマートフォン(スマホ)ゲームの操作についてです。実はスマホの基本的な操作インタフェースである「タッチパネル」には、ゲーム操作の障害になる致命的な課題があります。多くのゲーム、特に「ストリートファイター」のような格闘ゲーム(格ゲー)に代表されるアクション系やシューティング系のゲームは例外なく、タッチパネルの克服に苦しんでいるのです。

タップだけで「スーパーマリオ」を見事に再現したマリオラン

 2016年12月15日に配信が始まった任天堂のスマホゲーム「スーパー マリオラン(Super Mario Run)」。米国の新聞ウォールストリートジャーナル(WSJ)紙の2017年1月2日の報道によると、マリオランのダウンロード(DL)数は9000万を超えたとか。さすがマリオというところです。皆さんの中にも年末年始にダウンロードして遊んでみた方がいらっしゃるかと思います。

スーパーマリオランはタップ操作だけでマリオらしいアクションゲームを再現して見せた
スーパーマリオランはタップ操作だけでマリオらしいアクションゲームを再現して見せた

 マリオランを実際にプレーして驚かされるのはスマホの縦画面をタップするだけで遊べるそのゲーム性です。家庭用ゲーム機のマリオは当然横画面ですし、スーパーマリオと言えば多彩なアクションが有名なタイトルです。公開前のデモなどで「タップだけ」と聞かされたときは、どれだけのことができるのか正直言って僕も懐疑的でした。しかしそこはさすが任天堂。シンプルな操作を好むスマホユーザーに見事にフィットさせて必要以上に複雑な操作を求めず、しかしながら「スーパーマリオ」の面白さの核を見事に再現しました。

 マリオのような家庭用ゲームの有名タイトルをスマホに展開する場合、大きく分けて

  • プレー体験をそのまま再現する
  • ゲームブランド(IP=Intellectual Property、ここではキャラクター版権などを意味する)を生かしてほかのゲームにする

    • の二つの考え方があります。

       プレー体験をそのまま再現する方式は一般的に「移植」と言われます。スマホを家庭用ゲーム機の「エミュレーター」として使い、家庭用ゲーム版と寸分たがわぬように再現する場合もありますがごくまれです。大抵はスマホに合うように操作体系を変更したり、スマホ特有の販売形態に合う仕様に変えたりと、何らかの工夫と改良が必要になります。例えば僕が以前在籍していたカプコンで手掛けた「逆転裁判」のスマホ版では、操作体系はあまり変えずに済みましたが、シナリオごとに課金し、まとめ買いするとお得にするといった仕様変更をしました。

       もう一つの「ゲームブランド(IP)を生かしてほかのゲームにする」は、例えば、元がアクションゲームだったとしても、スマホ版ではキャラと世界観だけ流用してパズルやRPGといった別のゲームに仕立ててしまうやり方です。

       この方式は「ファンの期待に応えられない可能性がある」点が大きな問題になります。元のゲームのキャラや世界観が好きな人なら別のジャンルのゲームでも喜んで受け入れてくれます。しかし、特にアクションゲームの場合、操作感やキャラとの一体感を好む人が多い。そのような人にとっては、アクションではないゲームは、キャラが同じでも「別のゲーム」でしかありません。失望してプレーはおろかダウンロードすらしてもらえないかもしれません。