ベル(Alexander Graham Bell)の関心は聴覚障害者の支援にあった。マルコーニ(Guglielmo Marconi)は無線通信の実験に成功した。エジソン(Thomas Alva Edison)は録音機を作るつもりだった。

アレクサンダー・グラハム・ベル氏 (c)Topfoto/amanaimages
アレクサンダー・グラハム・ベル氏 (c)Topfoto/amanaimages
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 それぞれの技術は、電話、ラジオ、レコードというメディアとして大きな花を咲かせる。技術を開発した人の思いと、イノベーションとしての結果は、このように食い違うことが少なくない。

 今回は時間を遡る。19世紀に「電気」に関する科学と技術が起こる。その最初の応用の一つが電信だった。じきに電話も加わる。やがてラジオ放送が始まる。

 新しい電気通信メディアの出現はイノベーションである。そこでは経済が新しい形で動くようになった。その電気通信メディアの形成に、技術が大きな役割を果たしたことは言うまでもない。しかし技術がメディアを創ったとは言えない。

 例えば「コマーシャル放送」の創造は大きなイノベーションだが、技術がコマーシャル放送を実現したわけではない。技術が目指したものと、社会のなかに定着したメディアの形態は、しばしば食い違った。技術とイノベーションの関係を考えるうえで、電気通信メディアの形成過程は、私たちにたくさんの教訓を与えてくれる。

 本連載の第2回で、イノベーションには「差異」の創造と、その市場への「媒介」が不可欠と強調した。以下ではこの二つ、すなわち「差異」と「媒介」に常に注意しながら、メディアが出来ていく過程を追う。