筆者は2014年1月から2017年9月まで、調査会社IHS Markitのアナリストの立場で日経テクノロジーオンラインのコラム「IHSレポート」に寄稿してきた。この度同社を離れ、コンサルティング会社Grossbergを立ち上げる運びとなった。今回からは、Grossberg代表の立場で個人コラムとして連載を続けさせて頂きたい。

 アナリストという仕事やIHS Markitという会社には強い愛着を感じているが、独立という決断に至ったのには理由がある。一言で言えば、コンサルティングという仕事に自らの関心が向く中で、それを調査会社で実現しようとすることには無理があった。新たに連載を始めるに当たって今回は、あえてその事情を書かせていただきたい。似たようにも思える調査会社とコンサルティング会社の業務にどのような違いがあるのかを、筆者の実感とともにお伝えできればと思う。

調査会社とコンサル会社の違いとは…

 筆者は以前、IHSレポートに「『調査会社』と『コンサルティング会社』のスキルはどう違うのか?」と題して寄稿したことがある(関連記事)。その際の内容とも重なるが、両者の業務は一見似ているようで実は大きく異なる。

 調査会社では一般に、アナリストは最初に自らの得意分野を定義し、その分野についてのデータベースを構築する。これが調査会社の資産となり、このデータベースを活用しながら不特定多数の顧客に情報を有償で提供する。

 アナリストにとっては、自分の担当分野で事業を展開する企業が顧客となる場合が多く、その顧客以上に当該分野に精通していなければ信用は得られない。対象分野に関する豊富なデータベースと専門知識を持つアナリストをどれだけそろえているかが、すなわち調査会社の力量だ。有償の情報を求めているのは多くの場合、企業のマーケティング関連部門であり、事業戦略を策定するために市場動向などの外部環境を把握することが主な目的になる。

 こうした顧客と向き合うに当たり、調査会社には「顧客の内部事情には極力関与すべきでない」という不文律が存在する。特定顧客の内部事情に精通し、それを同業他社に提供する可能性があるという疑念を顧客に抱かれると、調査会社としての中立性を担保できなくなるからだ。

 実際の調査活動では個々の企業に詳細なヒアリングを行うため、各社の内部情報を入手したり推測したりすることが、ある程度は可能である。問題はそうした情報をどう扱うかであり、慎重に扱わなければ調査活動に協力してくれる企業を失うことになりかねない。調査会社の顧客は「他社の情報は欲しいが自社の内情は開示したくない」という二律背反の本音を抱えている。これにいかに応えるかが、調査会社にとっての命題だ。

 顧客企業から「その調査結果を踏まえて、当社はどうすべきだと思うか」という質問を受けることもある。これにコメントすることは、コンサルティング会社の仕事ではあっても、調査会社が関与すべき仕事ではない。この問いに答えるには、顧客の内情を熟知している必要があるためだ。自らのアドバイスが顧客にとって実行可能か、人材はそろっているか、資金的に対応できるか、リスク要因は何か、最悪のケースとして何を想定すべきか、といった点まで考慮しなくてはならない。これは調査会社が担うことのできる業務の範囲を超えている。