イラスト:ニシハラダイタロウ
イラスト:ニシハラダイタロウ
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 昨今、事業承継に悩む中小企業の経営者が増えている。私も多くの経営者に相談されたことがある。中でも多いのが、息子あるいは娘が継ぎたがらないという悩みである。

 継ぎたがらない理由は「父親の背中を見ていて、あんな苦労はしたくない」「あのような立派な経営者にはなれない」という2つにほぼ集約される。情けない気もするが、気持ちは分かる。

 一つめは、いつも父親(あるいは母親や親族)の苦労する姿を見て育ち、それがトラウマになってしまったケースだ。周囲のサラリーマン家庭に育った知人や友人に比べて、なぜうちの親だけがこんなに苦労しなければいけないのか――そう感じてきたことを簡単に否定するのは難しい。

 二つめ、これはコンプレックスである。厄介なのは、先代が優れた経営者であればあるほど自分と比べてしまい、その分だけ劣等感が強くなるケースだ。そのため、自分が承継するなんて絶対に無理と、最初から諦めてしまうのである。特に、責任感が強いというか律儀な人ほど、このような傾向にあるようだ。

 第三者としては「いずれは社長の座が転がり込んでくるのだからラッキー」と思うのだが、どうもそうではないらしい。承継をチャンスとは考えず、降って湧いた災難と思ってしまうのである。いずれにしても、後継者(承継する側の人)はかわいそうなくらいに落ち込んで、我が身の不運を嘆く。

 だが、いずれのケースも、私のアドバイスはいつも同じ。それは「開発しよう」だ。

 私は今まで、いくつもの事業承継を間近で見てきた。その多くはクライアントだったが、クライアントが関係している企業もあった。

 この経験の中で、事業承継が円滑に行われて成功したほとんどのケースでは、間違いなく、そこに開発があったと感じている。それは製造業やものづくり業だけのことではない。流通業や小売業、サービス業でも同じことが言える。

 ここでの開発とは、商品開発はもちろんのこと、事業開発であったり人材開発であったり、中には社名などを変えて企業のイメージを新しくしたりといったことも含まれる。