イラスト:ニシハラダイタロウ
イラスト:ニシハラダイタロウ
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 岩手県の花巻にマルカン百貨店というデパートがあった。十数年前だろうか、そのデパートの名物を食べに行っことがある。

 マルカンの名物とは、食堂のソフトクリームである。なぜ名物かというと、何しろ「でかい」のである。普通の量の3倍ではきかないぐらいに大きい。しかも、スプーンが付いてこない。どうするのかというと、テーブルに常備してある割り箸を割らずに、それをスプーン代わりにするのである。その食べ方もまた、名物である。

 2017年に入り、その名物を再び食べる機会があった。デパートは2016年に閉店しているのだが、食堂は以前と同じ場所、マルカンだった建物の6階で営業しているという。

 それを聞いたときは「どう考えても青息吐息」と思った。だが、行って驚いた。以前行ったときと同じ、いや、それ以上にお客さんでいっぱいだったのだ。

 聞けば、マルカンの食堂はいつもお客さんでいっぱいで、それが当たり前なのだそうだ。しかも、文字通りの老若男女だという。老いも若きも赤ちゃんを抱いたヤングママも学生も、それも小学生から高校生までと、とにかく地域の住民全員が毎日来るのではないかというほどのにぎわいだという。

 地方の地元資本のデパートの多くは、売り場をのぞけばお客さんはまばらである。いや、まばらというよりも、いないという方が近い。それが、地方デパートの現実である。

 最初にマルカンに行ったときも同じだった。だから、マルカンに行こうと言われたとき、正直、まだ営業しているのかとビックリしたほどだったのである。

 それが、デパートは閉店したのに食堂は残っていた。しかも、その食堂はお客さんでいっぱい。それは奇跡ではないかと思うのだ。