生い立ちには、ドラマがあるのだ

 まっとうな会社は、創業あるいは設立時に立派な目的と理念を明確にする。何をして、どうあるべきか。それが不明であれば、ただ儲かればいい会社ということになるが、目的も理念も定まらないからうまくいくはずはない。

 だから、会社が生まれた時から今までのことを思い起こすと、その会社の根っこというか基盤というか、その会社の本質が分かるのである。

 私は、いつもそこを知りたいと思う。なぜ生まれ、どうして成長し、そして今在るのはどうしてか。このあたりを知りたいのである。

 一口で言えば「生い立ち」ということだ。それを知ることは、その会社のほぼすべてを知ることと同じになるのである。

 スポーツ選手についても、同じようなことが言える。優れた選手の生い立ちには、ドラマがあるのだ。

 例えば、天才的な技量を見せる小柄なサッカー選手。彼は、生まれてしばらくして小人症ということが分かった。そこで親は全財産を売り、借金を重ねながら超高額なホルモン剤を買い与えた。その両親に報いるため彼はまさに一心不乱で練習に打ち込み、その結果、身体のハンディを乗り越えて世界一の選手になった。子どもを愛する両親の元に生まれて世界一になったこの選手には、生い立ちゆえの事由があったのである。

 このように、何かを成し遂げたりしっかりとした基盤を持ったりしている会社には、それぞれに生い立ちがあり、それを知ることは大いに参考になる。まして、その会社と提携したり協業したりしようとするならば、絶対に知らなければいけない原理・原則なのである。

 しかし、多くのビジネスパーソンは、この大切なことを忘れているのではあるまいか。その会社がいつ生まれ、どのような苦難があり、それをどうやって乗り越え、そして今どうなっているのか。それを知りたいと思わないビジネスパーソンが多いのだ。過去のことなどどうでもいい、生い立ちを知ってどうなるのかと、今の売り上げや取引条件の駆け引きに明け暮れるだけ。だが、それだけではいかがなものかと、私は思うのだ。

 さあ、相手の会社の生い立ちを知ろう。そして、その良いところを頂こう。最初から順風満帆で成長し続けている会社などあるはずはない。そこには必ず苦難の歴史があり、それを乗り越えたパワーとノウハウがあるのである。

 ところで、私の会社の生い立ちはどうかって? 来た来た、そこを聞きたいのは分かる。しかし、残念だが、私の会社の生い立ちは、語るほどのことは全くない。学生時代に何となく始めて、ここまで何となく来てしまった――というのが本当の話。
 だいたい、お付き合いの会社の生い立ちばかりが気になって、自社の生い立ちなんぞは考えたことがないのである。テヘヘ…。