あるメーカーの開発部長が銀座に…

 元々、夜の銀座の仕組みは、ほとんどが個人営業のお店であり、ママがオーナー(ママの彼氏もいる)だったり、副業として中小企業者が店を出したりする場合もあるが、事業規模としては中堅・大企業はほとんどない。

 だから、お店に管理部や経理部があることは少なく、ママやチーママ(ママの補佐役)が従業員やお姉さま(ホステス)の勤怠管理も含めて、会計・経理と業務管理を行っているのである。

 しかし、お店の中に事務所はないのだから、そもそもそのような仕事をする場所がない。つまり、ホステスさんの勤怠管理をしっかりと管理しているとは言えないのである。

 ホステスさんがお店に出て来るときはいいが、帰るときはどうだろう。お姉さまはほとんど飲んでいるし(いかに高いお酒を客に飲ませて自分も飲むのが仕事)、ママも飲んでいることが多いし、ときには客と二次会に流れて行くことも多いという(これも、聞いた話)。当然、お姉さまも積極的に付き合うことになる。(二次会を主業務? としているお姉さまも多いらしい。これも聞いた話。くどいか)

 要するに、毎日の勤怠管理などできるわけはなく、もちろん、タイムレコーダーがあったとしても、ちゃんと使うことも出来ないのが現状で、まして、一人ひとりの時給や待遇条件などを勘案して給与明細をつくって給料を払うことが曖昧になっていたのである。

 それを、あるメーカーの開発部長が銀座に通い始めてすぐに気付いたのだ。「勤怠管理、どうしてる?」と。

 はじめ、勤怠管理という言葉さえ知らなかったママもいたそうだが、彼はそこでお節介をやいたのである。「じゃあ、勤怠管理システムをつくってやるね」。

 これが、システム開発のスタートだった。

 システムの概要はこうだ。

 お姉さまにカードを持ってもらう(初期の頃は磁気カード)。そして、お店に出たらピッと端末にタッチ。そしてお店を出るときにもピッ。これがすべての作業だ。

 そして、先ほどの開発部長の会社のサーバーで、お姉さまの時給と待遇条件を勘案して計算処理して、週末(週給のお店が多い)にママに集計表をファックスで送信するのである。

”お節介の鉄人”が次々と…

 もちろん、月給制なら月末なのだが、ここですごいことが起こったのだ。この開発部長、お節介の鉄人(私は開発の鉄人と言われているが)と言っていい。何と、「ママ、お給料を手渡すのも面倒でしょ。うちが支払い代行をしてあげる」と、給与の支払い代行をするようになったのである。

 当然、給与を建て替えて支払うわけだから、そこにいささかの金利も発生する。これはもう、立派な金融事業である。

 さらに返す刀で次のお節介。「お酒や什器の仕入れ代行もしてあげる」と、今では、銀座のかなりの数のお店を「丸ごとお節介」しているのである。

 言い忘れたが、このシステムの運用費は最初はタダ。お姉さまから、出退店時にそれぞれ手数料として100円徴収していて、それでシステムの運用費を賄っているのである。

 お姉さま方にとっては毎日200円の負担だが、高給取りなので気にならないし、始めるときに何の負担もないから、反対するママさんはいないのだそうだ。

 いかがだろうか、こうしてみると「お節介ビジネス」というビジネスモデルもアリなのだ。自らは気付かないところにサービスを提案し、一方的に提供してしまうのである。

 さあ、お節介ビジネスを開発しよう。今から銀座に繰り出す(その時は連れてって)のもよいが、業態は違っても現場で管理ができない職場はいくつでもあるではないか。

 そのような職場をよく観察し、相手が気付くその前にお節介をすることが原則だ。

 相手側が先に気付いてしまうと、それは、つくって提供するこちらが請負仕事になってしまい、あちこちに相見積もりを回される羽目になる。

 とにかく、こちらが先のお節介。これが原理原則なのである。

 ところで、私はお節介か? ううむ。それは難しい。私はお節介ビジネスを提案しているほどのお節介なのだから、お節介にお節介をする人を何と呼べばいいのだろうか。

 あっ、こう呼んだらどうだろうか。「大節介」と。…お粗末でした。