正式には「立ち位置」という言葉はないようだが、私はよく使うのである。私の言う立ち位置とは、その人や会社の「立場」が、事業を進める時に他人や他社と位置的もしくは力学的にどうあるべきかという意味である。時には利益が絡むこともあり、特に開発においての立ち位置は、大変に重要であると思うのだ。

 私は、この立ち位置を間違えたばかりにひどい目に遭ったり、悔しい思いをしたり、あるいは、意にそわない苦労をされている人を数多く見て来たのである。

 立ち位置をうっかり違(たが)えたばかりに苦労するなんて、ハナから自分(自社)の立ち位置を定めておけばよいのだが、普段、あまり意識はしない。だが、いったんそれを間違えると取り返しがつかないことになるから厄介だ。

 何とも不憫(ふびん・かばってやりたいくらいに可哀そうなこと)であるとしか言いようがないが、案外、そんな事件が多いのである。

 まして、開発を進めるうえで立ち位置を違えたら大ごとだ。せっかくの開発がストップしたり、止まるだけでなく逆に訴えられたりすることもあるのだから大変だ。

 最近も、ある会社のご担当が、この立ち位置を違えたばかりに大騒動になったのである。

 この会社のご担当(Aさん)は、ある会社(B社)に他のC社を紹介しようと考えた。AさんはB社もC社も取引先でありよく知る会社なのだが、両社はこれまで面識がない。Aさんは共通の知人ということだ。

 Aさんはあるとき素敵なことに気付いた。大きなニーズを知ったのである。ある業界で売れること請け合いのこの新製品、両社が協力して開発してくれたら、それはそれは素晴らしいビジネスが生まれるだろうと考えたのである。いわば「提携・協業」を促し、仲人役を買って出たのである。

 しかし、そのAさんの好意を、B社もC社も真逆に受け止めたのである。何と、新製品を共同で開発するという前向きな提案とは受け取らず、お互いに競わされる「競争入札・当て馬」的な引き合いと受け取ってしまったのだ。B社とC社に競わせてコストダウンを図り、Aさんの会社が安く買って高く売るという卑怯な駆け引きと見られたのである。

 これはもう、悲劇と言うしかない。Aさんの善意・正義の提案が、かえって争いのもとになってしまったのだ。