「囲い込み」とよく言う。元々の意味は、15世紀~19世紀前半頃、イギリスの大地主による共有地の私的所有化があちこちで起こったそうで、そのことを言うらしい。

 それが現代、特に産業界では、顧客を自社の事業に都合の良いように仕向けること、というような意味になっている。言いかたとして多いのは「客を囲い込む」だが、最近の日経ビジネスでも「凄い囲い込み」という特集記事が組まれているほどだ。

 顧客を自社の都合のよいように囲い込み、他社より競争優位に立ちたいのは分かる。が、こと開発においては囲い込みはかえって逆効果ではないかと、私は長年考えてきた。それは一種の原理原則であり、開発においては、囲い込むより解放した方がよいと思うのだ。

 ときに、開発を他社と提携したり共同で進めたりすることがある。その時、一般的に守秘義務契約を締結することが多い。英語では、NDA(non-disclosure agreement)というが、このNDAというのは、お互いの情報を囲い込み、他の事業者を排除して契約者だけの内々で開発を進めようという意思を、お互いに確認することでもある。

 そして、多くの開発者はNDAを結ぶと、これで他社との開発の目は無くなったと知るのであり、お互いの情報について他社にはもちろんのこと、社内においても締結した相手先との間においても、開発の内容や情報について、慎重に取り扱いをしなければいけないと注意されるのである。

 私はかつて、このNDAを締結したばっかりにひどい目に遭った会社を知っている。

 内容を精査せずにハンコを押したのも悪いが、その条項の中に、「開発テーマについても一切他言してはいけない」ことと「これからは同様の開発テーマを、それが独自の新しい知見に基づくものであっても自社だけで進めてはならない」と明記されているのを見て驚いたことがある。

 分かり易く言えば、いったんNDAを締結したら、未来永劫いつまでも、同じテーマの開発をしないと固く約束しろということだ。

 こんなことがあるだろうか。これだけ時代が動き、開発環境が目まぐるしく変わり続ける中で、NDAを交わしたばっかりに、ある分野の開発が一切できなくなるなんて、おかしいを通り越して不思議なことと言わざるを得ない。

 まして、お互いに協力して開発を進め、お互いが良くなろうというのが開発なのに、お互いを縛り付ける取り決めをして、一体、何が得になるというのだろうか。