イラスト:ニシハラダイタロウ
イラスト:ニシハラダイタロウ
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 あろうことか、開発を始めるときに特段の想いも信念もなく、何となく始める、あるいは始まってしまうことがある。それは、短距離走でのスタートラインに立ったアスリートが、神に祈るかのように自らの気持ちを鎮めて集中し、「ヨーイドン」の号砲で疾走することと対極の行為である。

 まるで遊んでいるかのように、ダラダラと勝手にスタートするのと同じこと。要するに、何のけじめも目的意識も集中力も、何もないのである。

 さあこれから始めるというときに、最初が肝心なのに、何が目的で目標なのか、それを決めずにスタートするとは何事か。大事なことは、開発を始めるならば、何故、開発をするのか、何が目的なのか、どうなりたいかという目標を明確にして定め、それをやり遂げるという強い信念、すなわち覚悟が必要なのである。

 開発とは、思うように順調に進むことは多くない。思い掛けない技術的な課題や、開発チームの不協和音や調整不足など、次から次に無理難題が襲い掛かる。

 このとき、それをいかに乗り切るか、それが信念というチカラなのだ。だから、開発を始めるとき、何があってもやり遂げる決意、固く信じて動かない心を決めること、それが、覚悟を決めるということだ。

 ところが、この覚悟がないのにとりあえず開発を始める企業が多いのはなぜだろうか。

 よく、企業にとって開発にかかる経費をいくらまで許容するかという議論がある。もっと言えば、売り上げに対して何パーセントが適正なのかといった、まるで交際費を決めるかのような議論を聞くと、一体、本当の開発をする気があるのかと耳を疑うのである。

 いつも言うが、企業にとって開発とは、会社の命運を決める最重要課題である。既存の事業や商品はいつか廃れるし、顧客に飽きられる。あるいは、異次元からワープのように、全く新しい事業や商品に取って代わられてしまうのだ。

 それなのに、何となくダラダラと開発を始めるなんて、私には理解できないし、何となく開発がうまく行くなら世話はない。