田中 栄=アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
田中 栄=アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
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 新興国との価格競争が激しさを増す中、生き残るためにはどうすればよいだろうか──。日本企業の多くがこの問題に頭を悩ませています。こうした状況で今、業種や業界を問わず注目されているのが、「ファン」という言葉です。

 「ファン」というのは単なる顧客ではありません。ポイントは「好き」という感情を抱いていることです。その感情の対象は企業そのものや、商品やサービス、デザイン、そこに関わる人など、いろいろです。「好き」という感情が、なぜそれほど重要なのか。それは経済合理性を超えた選択であるため、不毛な価格競争から解放される可能性があるからです。

 例えば、「iPhone」を思い浮かべてみて下さい。機能やコストパフォーマンスで言えば、Android系のスマートフォンの方が選択肢も多く、より優れたものがたくさんあります。それでもなぜ多くの人がiPhoneを選んでいるのか。一言で言えば、「好き」だからです。

 デザインだったり、Appleブランドだったり、歴史や開発ストーリーだったりと、iPhoneに惹かれる点は人それぞれだと思います。「好き」は感情的なものであり、経済合理性では説明できないものです。同業他社の側から言えば、iPhoneと対抗するのは実に厄介です。なぜなら、他のメーカーが似たような性能で価格をもっと安くしたとしても、「好き」という感情を持った多くのユーザーは見向きもしないでしょう。あるいは、処理能力やデータ容量を高めた製品を出したとしても、「だから?」という感じで、結果はあまり変わらないような気がします。「好き」という感情が評価軸になると、メリットやデメリットにいくら訴えたところで戦いようがないのです。さらにネットワークを通じて、メーカーとユーザーが密接に「つながる」仕組みまで出来てしまうと、この関係をひっくり返すのは非常に困難になります。

 ネットワークでメーカーとユーザーが「つながる」のは、スマートフォンや携帯音楽プレイヤーに限ったことではありません。今後はテレビやパソコンはもちろん、多くの家電製品、さらには自動車なども「つながる」ようになるでしょう。ネットでつながることは、いわば「究極の顧客の囲い込み」でもあります。仮に日本メーカーがさまざまな分野で魅力的な製品を開発し、顧客と「つながる」ようになればどうなるでしょうか。日本メーカーがiPhoneに対して苦戦しているのと同様、新興国メーカーは攻めようがなくなってしまうはずです。新興国との競争では「ファン」と「つながり」が不可欠なのです。