保険会社からシリコンバレーへ

 彼が非凡なのは、安定した保険会社での生活に飽き足らず、思い切って「シリコンバレー」へ飛んだこと。米国のシリコンバレーはベンチャー企業のメッカです。そこでは将来への野心あふれる起業家とそれを育てようとする投資家がひしめいています。彼はそこでインターンとなり、ベンチャー企業とは何かを目の当たりにしました。

 シリコンバレーのベンチャーには「恥」という感覚がありません。ベンチャーなので人もお金もないのが当たり前。あるのは情熱だけです。だから変に見栄を張る必要もないし、「これは!」と思う人には、知らない人でも電話やメールでアポを取るのは日常の光景なのです。そこで自分のビジネスを熱く説明し、協力を求めるというカルチャーがあります。シリコンバレーにあふれているのは「エネルギー」であり、いい意味での「野心」。今の日本に一番足りないものです。

 もう1つ彼がシリコンバレーで感じたのは、「これからは電動モビリティーの時代が来る」ということ。最近は電動バイクの実用化が進んでいます。中国では年間2000万台以上もの電動バイクや電動自転車が生産されています。電動バイクのメーカーは数え切れないほどあり、彼らに依頼すれば単にバイクを作るだけならそう難しくはない。少なくともバイクを作るために、まず土地や生産設備を用意し、さらに従業員を集めて…という時代ではなくなっています。大きな資本がなくても今やモノが作れるのです。

 彼自身はバイクファンでもなく、バイク業界への特別な思い入れがあるわけでもなかったのですが、「このビジネスは成長する」という純粋な理由から選んだのが電動バイクでした。

 当然、バイクのことは何も知りません。でも自分が知らなければ、詳しい人を探して「聞けばいい」だけのことです。本やインターネットを探せば、専門家は簡単に見つかります。私が彼と出会ったきっかけも、突然掛かってきた1本の電話でした。

 恥ずかしがらずに相手に飛び込む「勇気」があるかどうか。何もかもそろっているのにうまくいかないベンチャーは、大抵誰かが声を掛けてくれるのを待っています。待っていても、誰も来ません。

 できない理由、やらない理由は幾らでも並べられます。考えているだけでは何も始まりません。大事なのは挑戦する「勇気」、そして実際にやってみる「実現力」。「成功」する可能性があるのは、実際にやった人だけ。最近、強くそう感じています。