田中 栄
田中 栄
アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー

 はじめまして。アクアビット代表取締役チーフ・ビジネスプランナーの田中栄と申します。私は「未来を見据えた事業を考える」という仕事をしています。今年で14年目となりました。「未来予測」という法人向けのレポートを執筆して販売しつつ、さまざまな業界で企業の事業開発や経営企画の現場に入り込んでは、これからの社会が求める新しいビジネスを創ることに日々取り組んでいます。

 こうした仕事をしていく中で改めて感じるのは、社会や市場の「パラダイム」がダイナミックに変わり始めているということです。「パラダイム」とは、その時代や分野で当然と考えられてきた常識や価値観のこと。こうした世の中の根底にあるものが、今、抜本的に変わってきていることを感じるのです。

 例えば、昨今、業績がふるわないエレクトロニクス企業が目立っています。日本を代表する大きな会社が苦戦どころか存続すら危ぶまれるということが普通になってきました。しかし、これは単に「景気が悪くなったから」なのでしょうか? じっと耐えていれば、やがて業績は回復するのでしょうか。それは違います。

 根底にあるのは「パラダイム」の変化です。これまでのビジネスのやり方や過去の延長線上にあるような商品では、時代のニーズに合わなくなってきているのです。

 現在の日本には、生活に必要な製品は基本的にそろっています。しかも、テレビも携帯電話もパソコンも、性能はどれも似たり寄ったり。ディスプレーや半導体、バッテリーといった主要な部品は、どの企業も似たようなものを使っています。そのため、品質や性能に大きな差が出ないのは当然のことです。

 今や中国やインドといった新興国でも大抵の製品は造れます。むしろ、「安さ」という点では新興国に負けてしまう。しかも、中国とインドは国内に10億人以上の人口を抱えており、まさに“異次元”のスケールメリットを発揮できます。新興国と競って「安さ」を追求すれば、疲弊するのは当たり前です。

 一方、日本では人口が増加から減少へ向かい、未曾有(みぞう)の高齢化が加速。社会は過去の延長線上にあるものとは違う姿へと変わり始めています。社会が変われば、必要なビジネスもまた変わる。これまでは大企業に就職することは「安定」を約束するものでした。ところが、今や多くの社員と設備を抱える大企業への就職は、ある意味「リスク」に変わりつつあると言っても過言ではありません。過去の常識にとらわれて「動かない」「変わらない」ことこそが、最大のリスクとも言える時代になりつつあるのです。