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 「未来予測」という法人向けレポートを私は定期的に執筆しています。これは中・長期戦略を議論するために、その前提となる社会や経済、ビジネス、テクノロジー、価値観、ライフスタイルなどについて、予想される変化を提示するものです。先日、半年ほどかかったアップデートがようやく終わったところです。執筆を終えて改めて思うのは、私たちは今、「明治維新」にも匹敵する歴史の転換点に立っているということです。

 私は現在50歳ですが、私の世代は「大企業に入りさえすれば一生安泰だ」と言われていました。でも実際はどうでしょうか? エレクトロクス、自動車、放送、通信、新聞・出版、小売り・流通、銀行、電力・エネルギー、農業・漁業、医療、建設・不動産…。「本業さえしっかりやっていれば、ウチは10年後も大丈夫」と言えるような会社はあるでしょうか。あらゆる産業分野が同時多発的に陰りつつあるのです。かつてこんな状況はありませんでした。歴史的転換点という表現は決して大げさなものではありません。

「俺たちは違う」はずが…

 例えば、エレクトロニクスでは、パソコンがかつて世界を席巻していました。ところが、現在は見る影もありません。「俺たちはパソコンとは違う!」と言い張っていた携帯電話やテレビも、結局は同じ運命をたどっています。さらに最近では、液晶パネルや半導体などのハイテク部品や家電、オーディオ機器なども、新興国に押されっ放しです。そして今、日本の「ものづくり」の“本丸”とも言える自動車でも、電動化やコンピューティングとの融合によって同じようなことが繰り返されようとしています。

 農業は、ひたすら保護され続けたことで高齢化が極限まで進んでしまいました。経営スタイルは依然「家業」のままであり、設備投資や研究開発もまともにできない状態です。日本の農業はこのままでは「崩壊する」といっても言い過ぎではないと私は思います。

 放送・新聞などのマスメディアは、急速な環境変化に対応しきれないまま迷走を続けています。インターネットが当たり前の時代に、紙や電波で情報を一方向でばらまくという既存メディアの方法は時代のニーズに合わなくなっています。広告主たちは、旧態依然のままのメディアは特に若者層にリーチできないことに限界を感じています。マスメディアを支えてきた広告モデルが変わるのは避けようがないことです。

 小売り・流通では、即日配送どころか、大都市圏では1時間配送が珍しくなくなるかもしれないほど、スピードアップされています。その結果、生鮮食品や日用品、軽食までネット通販が扱うようになってきました。米国では数百店舗規模で大手百貨店チェーンの閉店が続いています。Wal-Mart(ウォールマート)でさえ、生き残りのためにセルフレジシステムの導入などに必死に動いているのです。同じような流れが日本でも起こるのは時間の問題でしょう。

 銀行は、投資・融資・決済といった既存ビジネスの消失に直面しています。お金はデジタル化によって最も流通させやすい商品だからです。さらに近年はブロックチェーン技術により、SNSのメッセージやメールで送金が簡単にできるようになりました。決済ではこれからは手数料ゼロが当たり前、銀行口座を持つ必要さえなくなります。融資では、例えば米Amazon社は取引企業を対象に最高5000万円まで無担保で貸し付けを始めています。