田中 栄=アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
田中 栄=アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
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 「これから最も大きく変わる産業分野は何か?」。こう聞かれたら、迷わず私は「医療」と答えます。これが、いろいろな産業分野で新しいビジネスを創出する仕事に携わっている者としての回答です。

 ゲノム解析が進む中で、「なぜ病気になるのか」「人間はなぜ老いるのか」といった、生命の根源に関わるようなことが次々に分かり始めています。最近はさらに「ゲノム編集」という言葉まで登場してきました。人間が生み出したテクノロジーは、遺伝子を「改変」することさえ可能にしつつあるのです。

 こうして今、生命の設計図に基づく医療の革命的な変化が始まっています。これは死生観を含めて、私たちの価値観やライフスタイルを変えることになるでしょう。私はこれを「ライフ・イノベーション」と呼んでいます。

 2012年、京都大学の山中伸弥教授が「iPS細胞」に関連してノーベル賞を受賞したことが大きな注目を集めました。山中教授は、「iPS細胞」と呼ばれる万能細胞を作ったことで受賞したと一般の人々には思われています。しかし、真に凄い業績は、「細胞の時間を巻き戻せる」ことを発見したことにあります。

 ウイルスを使って遺伝子の“スイッチ”をたった4つ入れるだけで、皮膚細胞などから「生まれた直後」と同じような万能細胞を作ることができます。「生まれた直後に戻せる」というのは、細胞レベルでは時間の巻き戻しが可能であるということ。すなわち「若返りができる」ことを実証したということです。

 iPS細胞の発見は、「老化」とは何かという生命の根源に迫るものです。今後10年以内に「老化」のメカニズムがほぼ解明されることでしょう。それによって、老化を遅らせる「アンチエイジング」技術も飛躍的に進歩するはずです。

ゲノム解析がもたらす医療の革命的な変化

 2013年、米国の人気女優アンジェリーナ・ジョリー氏が、乳腺を切除する手術を受けたことが世界的なニュースになりました。彼女は「BRCA1」と呼ばれる遺伝子に問題があり、それによって8割以上の確率で乳がんが発症することが医学的に確認されていました。そのため、予防的措置として手術に踏み切ったのです。でも、これはほんの一例に過ぎません。こうした病気の原因遺伝子は、現時点でも既に6000以上が特定されていると言われています。

 原因が分かるということは、その病気を治せる可能性があるということです。しかも、原因に直接働き掛けるので「根治」です。特定の病気になりやすいことが分かれば、発症を待ち構えて集中的に検査を行うことで「超早期治療」もできるようになります。それどころか、将来的には原因遺伝子を修復することで、いろいろな病気を「予防」することも可能になるでしょう。