田中 栄=アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
田中 栄=アクアビット 代表取締役 チーフ・ビジネスプランナー
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 「未来予測」という仕事をしていて、最も多く受ける質問は「自動車の未来」についてです。自動車は日本の基幹産業であり、その裾野が非常に広いからでしょう。私は、自動車に関して今後の変化のポイントは3つあると考えています。

 第1のポイントは、「自動車」というカテゴリーは同じでも、先進国と新興国では全く違う市場になるということ。欧米や日本など先進国では、既に相当数の自動車が普及しています。そのため、需要の大半は「より良いもの」を求める買い替えです。これに対し、新興国の多くは、公共の交通手段ですらまだ十分に整っていません。生活やビジネスのために、まずは安く移動・輸送するための手段が求められています。

 未来を考える上で留意すべきなのは、「新興国の多くは、将来にわたって先進国であり続けることはできない」ということです。先進国の所得水準は、一般には1人当たりGDP(国内総生産)で4万米ドル以上です。これに対し、例えば中国は2016年時点で8000米ドル程度です。仮に今後15年間、奇跡的に7%成長が続いたとしても、1人当たりGDPは 2万米ドルにも届きません。その上、2030年以降は高齢化による人口減少が予想されており、労働集約型のビジネスモデルが変わらない限り、経済成長を期待するのは難しくなります。

 そう考えると、多くの新興国では30万~100万円未満で購入できる自動車が求められることでしょう。しかし、先進国ではこうした低価格の自動車はほとんどありません。そのため、新興国基準の自動車、すなわち移動や輸送を最重視した低価格の新しいタイプの自動車が求められるのです。