医療情報システムや情報活用などの分野で先進的な取り組みを進め、日経デジタルヘルス座談会「情報化が切り拓く、ソーシャルホスピタル実現への処方箋」でも刺激的な提言を披露した京都大学医学部附属病院の黒田知宏氏に登場してもらった。(編集部)

武藤 黒田先生はNDB(National Database、レセプト情報・特定健診等情報データベース)の利活用推進にご尽力されています。2016年度には、先生の研究がAMED(日本医療研究開発機構)の臨床研究等ICT基盤構築研究事業に採択されました。まず、この研究から教えていただけますか。

黒田 「新たなエビデンス創出のための次世代NDBデータ研究基盤構築に関する研究」で、“もっと使い勝手の良いNDBを設計しよう”というのが狙いです(関連記事)

左が黒田氏(写真:栗原克己、以下同)
左が黒田氏(写真:栗原克己、以下同)
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 NDBはレセプト情報を集めたデータベースで、蓄積情報を医学研究に活用する試みが進んでいます。東京大学と京都大学に「レセプト情報等オンサイトリサーチセンター」が開設されましたが、NDB自身が意外に使えない。今の仕組みだと、データの構造が分かりにくかったり、名寄せ(複数データから同一人物をまとめる作業)が不十分だったり、大規模データに対するシステムリソースが不足したりしていて、一般の研究者が手軽に使えるようにはなっていません。

 そこで前もってNDBのデータハンドリングを勉強できる環境と、小さなデータセットで自作の分析プログラムを試せる環境を用意しておき、準備が済んだところで現実のデータに触れる、研究者に使いやすい仕組みを作ろうと考えたのが今回の研究です。システム基盤は特定ベンダーによらず、将来の拡張性が容易に見込めるオープンソースフレームワークの「Hadoop」を採用しています。

武藤 NDBを見れば、個人がどのような診療を受けてきたかを追跡することはできるようになるのでしょうか。

黒田 本気になればできると思いますが、これが実際は難しい。レセプトのデータは匿名化されてから集められます。匿名化の際に保険者番号と名前の2つのデータを利用しますが、結婚して退社したり、あるいは離婚したりすると保険も名前も変わってしまい、追跡できなくなってしまうのが現実です。

武藤 そのため、黒田先生は「医療等ID」が必要だと主張されているんですね。

黒田 ええ、そうです。結局は番号できちんと紐付けていかないと更新した際に分からなくなってしまいます。情報漏洩の危険性ばかりが語られますが、漏洩の危険性とその番号があることで得られる利益を天秤にかけたとき、番号を付加したほうが本当の意味での利益につながると考えています。

 ところで、よくデータの2次利用という表現が使われますが、そもそも「1次」で上手く利用できていないものが「2次」で有効活用できるなんてありえないですよね。ですから最初に、「1次」で有効活用できる仕組みを考えなくてはならない。そこを真剣に議論するべきなのでしょうが、皆さん避けている感じがします。