皆が利益を得るためにはどうすればいいか

武藤 もう少し詳しく教えていただけますか。

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黒田 データベースを作るとき、どうしても溜まったデータを活用する2次利用から議論しがちですが、本来そのデータを取得するときの最初の目的があるはずです。まずはその目的のためにデータをちゃんと活用しなくちゃいけない。データベース化することで、そこにさらに価値がついて、患者本人に戻るような“データが回るサイクル”を作るべきだと思うんです。そうしなければ、データを提供する側の患者は「何のために私のデータが使われているのか」と不信感を抱くことになってしまう。

 それと同時に、作業の効率性を高めて負荷を下げていく必要があります。2次利用しかされないデータを創るためだけに、医療者がキーボードに向かわなきゃいけないようなことは考えちゃいけない気がするんです。

 情報ツールやコンピュータサイエンスは、あくまで効率化を実現するための道具。今、こうした道具が一斉に出てきて、世の中の在り方が変わろうとしているときじゃないですか。ですから変わることを恐れずに道具を最大限活用して、皆が利益を得るためにはどうすればいいかを考えればいい。例えば、遠隔診療(オンライン診療)一つをとってもそうですし。

武藤 なるほど。先日、ある企業の社長とランチをする機会があったのですが、そのときに「イノベーションとは何か?」という話になったんです。多くの人は新しいものを生み出して社会に実装することがイノベーションと考えるけれども、もっと大事なのは社会に実装してマネタイズすることであり、そこで初めてイノベーションになると。先生がおっしゃっていることも近いと感じます。結局は新しい価値を生み出す仕組みまで作っていくことが肝心なのでしょうね。

黒田 私自身エンジニア出身なのですが、「あなたがいなくてももう動くよ、さよなら」と言われることがエンジニアにとって最も幸せなことだと思っています。そうじゃないといつまで経っても属人的で、“あの人がいないと動かない”となる。

 職人芸は職人芸で非常に大事です。しかし、すべてが職人芸だと効率が悪すぎます。だからこそ、皆が永続的に求める部分をマスプロダクト化する作業って必要じゃないですか。それを社会全体に適用するとすれば、社会全体に対して設計図を見せて、これでいい?とコンセンサスを取りにいかなくてはならない。

武藤 黒田先生のその熱い思いはどこから生まれるのでしょうか。

黒田 どんな仕事であれ、仕事を途中で放り出して「あいつ逃げやがって」と言われて、自分が「そう、逃げちゃったんだよなぁ」と思わなきゃいけないような真似だけはしたくないんです。自分が信じていることを実現できるように突き進んでおきたい。何というか…手を動かさない人、汗をかかない人は誰も信用しないですし。私もここまで言っている以上は、一所懸命に手を動かさなくてはいけないなと。