武藤 永井先生は「次世代医療ICT基盤協議会」の構成員を務められたり、ImPACTプログラム「社会リスクを低減する超ビッグデータプラットフォーム」においてヘルスセキュリティのプロジェクトリーダーを担当されたりと、さまざまな方面で医療のIT化に携わっていらっしゃいます。これからの医療にとって、データ化は重要項目なのでしょうか。
永井 これからは医療データをつなぐことが必須です。そこから統計を調べ、ビッグデータを解析することができますが、まずはデータをつないで、実態を“見える化”することが大切です。
現在、内閣府にImPACTプログラムを支援していただいています。このプログラムでは虚血性心疾患などに対するカテーテル検査の報告書をデータベース化したり、自治体のレセプトデータを用いて、医療の見える化と統計分析を行ったりしています。
大がかりなプロジェクトは労力も研究費も大変ですが、足元の医療データを蓄積して分析する習慣が大切です。同じ病院内の血液検査や生理検査データ、検査レポートなどから始めたらよいと思います。少なくとも、入院中に患者が受けた医療の内容を、外来と病棟できちんと伝えることはデータ連携の基本です。
現状では、こうしたことにも問題が多いのです。病歴サマリーでは、おこなった医療内容をカルテに記載して、その患者に固有の問題を考察することが基本です。しかし診療で多忙な場合は容易でありません。しかし集積された情報から知識を構築して、患者により良い医療を提供できるようにするにはさらに努力が必要です。データを集めて知識を作る――。私自身、この姿勢を昔から心がけてきました。
武藤 永井先生はいつ頃からデータと向き合ってきたのでしょうか。
永井 1981年から小型のパソコンを使って、明治以来の入院カルテのデータベース化を始めました。しかし、研修医時代から自分の経験した患者の病歴を収集していました。いまでも東京女子医大時代の聴診所見のノートや、研修医時代にきれいに貼って整理した心電図や検査所見の写真、スライドがたくさん残っています。
回診では症例のポイントを短時間に判断する力をトレーニングしてきました。これは患者の情報を構造化する力です。今後はこうした経験を若い世代に伝えていかなくてはならない。そこで経験を体系化し、前向きに推論する仕組みを作ろうと思い、AIにも取り組んでいます。