病院へ行かなくても患者がストレスなくオンライン診療を受けられるようにしたい。

 その場に行かなくてもリアルに体験できるバーチャルスポーツを実現したい。

 顧客の表情まで読み取って臨機応変にサービス提供できるアシスタントロボットを作りたい。

 こうした未来志向の仕組みやサービスを実現するうえでの鍵となる、「自然さ」を追究する研究が進んでいる。大切なのはバーチャルな世界と人を結ぶインターフェースの改善である。

 例えば、バーチャルの世界でモノを押したときに、映像ではモノが動いたとしても、その抵抗が手に伝わらないと押している感触がなくて実世界との違いを感じてしまう。そこで反発力を手に加えてより現実感を生み出す。会話でも同様だ。単に音声だけに反応しても自然な会話にならない。人は相手の表情を見て、表現を変えたり、一呼吸入れたり、話題を変えたりするからだ。バーチャルの世界の中のキャラクターも、こちらの表情を読み取って臨機応変に対応してくれれば、会話はより自然に感じられる。

写真1 東京工業大学 未来産業技術研究所 知能化工学研究コア 准教授 長谷川 晶一氏
写真1 東京工業大学 未来産業技術研究所 知能化工学研究コア 准教授 長谷川 晶一氏
(撮影:新関雅士)

 東京工業大学が創設した未来産業技術研究所(注1)の長谷川晶一氏が、そうしたバーチャルの世界の違和感をなくすためのヒューマンインターフェースと実世界をバーチャルの世界で自然に再現するシミュレーターを研究している。力触覚(ハプティック)インターフェース、人や生き物の動きも扱える物理エンジンとシミュレーター、視線やしぐさで対話できるバーチャルエージェントなどの研究で人に寄り添うインターフェースを実現する。

 人にやさしいインターフェースを研究するうちに、長谷川氏はぬいぐるみロボットの開発にたどり着いた。ぬいぐるみにセンサーや駆動する機能を組み込み、人がどう扱っているか、どう呼びかけているか、どんな表情をしているかを認識して動作する。ぬいぐるみであれば、人を傷つけることもなく、柔らかいので壊れにくいというメリットがある。将来的には癒しロボットとして医療・介護での利用を目指す。

 具体的な取り組みの内容と課題について聞いた。

【脚注】

注1「未来産業技術研究所(FIRST:Laboratory for Future Interdisciplinary Research of Science and Technology)」。これまでに類を見ないスピードで進む技術革新の波を捉えるために、東京工業大学が創設した。機械、電気電子、金属、情報、環境、防災、社会科学などの幅広い領域を融合して、新たな技術を創生し豊かな未来社会の実現を目指した研究組織。