がん(悪性新生物)は日本人の死因の3割近く(注1)を占め、罹患数は100万人(注2)にも達するとされる。その撲滅は患者や医療従事者のみならず多くの人の悲願だ。
根治あるいは寛解を目指したさまざまな治療方法の一つが、放射線のエネルギーによってがん細胞を破壊する放射線治療だ。X線やγ線などを照射する方法が一般的だが、近年では重粒子線(主に炭素イオン)や中性子線を照射する治療方法も新たに確立され、がんの部位や治療方針によって使い分けられるようになってきた。
例えば、次世代のがん治療法として薬事承認が待たれている「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」を実現するにあたって、中性子源である加速器が小型化されれば病院も導入しやすくなり、患者が治療を受けられる機会も増えるだろう。
重粒子線や中性子線が活躍するのは医療分野だけではない。重粒子線はたとえば花卉(かき)の品種改良(突然変異の促進)に用いられているほか、中性子線は構造物や部品などを非破壊で検査する中性子イメージングに使われるなど、産業分野においても応用の拡大が期待されている。
重粒子線および中性子線の加速器を研究
東京工業大学科学技術創成研究院先導原子力研究所の林﨑規託准教授が手掛けているのがこうした重イオンビームあるいは中性子ビームを発生させる加速器である。特に、小型・高性能化を大きなテーマとして取り組んでいる(写真1)。
林﨑氏は、現在は小型のものでも6mから7mもの大きさがある加速器中性子源を、机の上に乗せられるぐらいにまで小さくしていくことを目標の一つに置いており、実際に3m程度に小型化できる見通しは得られているそうだ。
また、重イオンビーム加速器の研究では、独自に開発したマルチビーム化によって、世界トップクラスとなる108mA(2×54mA)の高出力化に成功している。
研究の取り組みや意義などについて林﨑氏に話を聞いた。
注1 厚生労働省「平成28年(2016)人口動態統計(確定数)の概況」(2017年9月15日発表)
注2 国立がん研究センター「2017年のがん統計予測」(2017年9月20日発表)