デジタルカメラが普及したことで、富士フイルムの売り上げのほとんどを占めていた写真フィルムの需要は激減した。同業の米Eastman Kodakでさえ連邦倒産法を申請するほど大きな、業界の地殻変動だった。こうした中で富士フイルムは、コア技術の使い方や適用分野をシフトさせることで、華麗な転身をしてみせた。

 医療機器や高機能材料により、同社の業績は好調だ。その立役者は、化粧品や医薬品の事業を立ち上げ、2016年6月末に同社副社長兼CTO(最高技術責任者)に就任した戸田雄三氏。同氏はその経験を基に、日経BP社が主催する次世代CTOが集うフォーラム「CTO30会議」でCTOの役割について講演した。今回、改めてCTOの必要性やその背景、求められる資質などについて聞いた。

――CTOの役割は何ですか。

戸田 企業の価値を最大化することがCTOにとって一番重要な役割です。今の時代、IoT(モノのインターネット化)やAI(人工知能)など技術がビジネス環境を大きく変えています。技術革新が産業を大きく変化させるトリガーになります。CTOこそが主役となってビジネスを大きく育てる時代なのです。

富士フイルムの戸田雄三副社長(写真:新関雅士)
[画像のクリックで拡大表示]
富士フイルムの戸田雄三副社長(写真:新関雅士)

――富士フイルムが化粧品や医薬品など新しいビジネスを育てるときに、最初にしたことは何でしたか。

戸田 コア技術の見極めです。現在のコア技術と育てていくべき将来のコア技術。富士フイルムにとって、まずやらなければいけないことは、このコア技術を定義することでした。どこを自社の強みとするのか、技術的な優位性はどこにあるのか。これを見極めて定義しなければなりません。

 そのためには、ビジネスを取り巻く環境についても知らなければなりません。現在の環境と、これから世の中がどの方向に向かい、その先にどのような世界が待っているのか。

 富士フイルムの場合は、化粧品産業や医薬品産業を取り巻く環境を知らなければなりませんでした。その業界がどう変化し、将来はどのようなニーズが生まれるのか。将来求められることを理解したうえで、その時に必要とされるコア技術を定義し、今から磨いていくわけです。

 「環境の変化の見通しからコア技術の定義」まで、これがまさにCTOがしなければならない仕事です。

――CTOとCEO(最高経営責任者)との役割の違いは何でしょうか。

戸田 CTOの役割は、仕掛け人として新しいビジネスモデルを提案することだと考えています。どの技術、どのようなビジネスをするのか。成功するか失敗するかは別として、まずは提案することが必要です。将来に向けた夢を描くのです。

 これに対してCEOは、経営という観点から優先順位を決めます。それを具体的な課題として落とし込む役割を担います。

 CEOが経営者としての腕を振るえるよう、CTOがアイデアを出すわけです。それも、CEOがしっかりと判断できるように予算、人員配置、生産体制、納期、コアコンピタンスなどを含めた、具体的なアイデアにする必要があります。

――そこまでいくと、CTOの範囲を超えているようにも思えます。

戸田 ビジネスを作るわけですからCTOのカバー範囲は広くなります。場合によっては越権行為に見えるかもしれません。でも越権行為をするくらいでいいのです。越権行為をする人が多い会社は、間違いなく優れた会社です。私も部下にはどんどん越権行為をするように言っています。