サービス企業が得る絶大な発言力

――自動運転ビジネスの中心がモビリティーサービスになると、クルマを買う人が減りそうです。自動車市場は縮みませんか。

野辺氏 むしろ市場や生産規模は拡大する可能性があります。現在、個人が所有するクルマは、一度新車として市場に出ると転売されながら約13年間存在します。これほど長持ちするのは1日平均約1時間(4%)しか乗らないためです。モビリティーサービスに使う自動運転車では、稼働率が50%以上、つまり個人所有のクルマの10倍以上になります。すると、クルマのライフサイクルが2~3年になるという想定もあり、通常のクルマが市場に約13年存在する間に4~6回生産することになるわけです。さらに、移動の利便性が高まればクルマが利用される新たな需要が追加されるので、市場規模も大きくなり、生産量も増える可能性があります。

――ライフサイクルが4分の1ですか。市場の新陳代謝が激しくなり、自動車メーカーは忙しくなりそうです。

野辺氏 完全自動運転車の場合、クルマのライフサイクルの短縮とともにリプレース、リサイクルやリユースなどを含め、クルマの製造プロセスが大きく変化します。さらに、それらの回収やメンテナンスに対する考え方や事業体制も大きく変える必要があります。こうしたことが、以前パソコン産業が急拡大する直前に起きた例があり、国際的にそうした製造形態により早く移行できた企業による市場寡占化が進みました。同様のことがクルマ産業でも起こる可能性があります。

 新車の開発も大きく変化することになります。しかし、自動車メーカーが自発的に新車のコンセプトを決定できなくなる可能性もあります。この点こそ、モビリティーサービスへの転換に向けて最も重視すべき点です。

 個人に販売するクルマを企画するとき、自動車メーカーの多くは、将来の人口動態や流行を予測し、その理想を具現化し消費者に提案します。ところが完全自動運転では、モビリティーサービスを提供するモビリティー事業者が、利用者の日々のニーズを分析しクルマそのものやサービス内容を企画開発する能力を高めます。そして、自動車メーカーはモビリティー事業者の指示の下、粛々とクルマを作るだけの立場になる可能性があるのです。

 このように、モビリティー事業者がユーザーに直結し、データ解析などにより不満やニーズをユーザーから直接、最も早く、最もよく知る立場になるためクルマの開発の主導権が移ります。ウーバーは、利用データをビッグデータとして蓄積し、これを分析して乗車客がいる場所の予測精度を向上し、迅速に配車することで、顧客満足度と稼働率を上げることに成功してきました。モビリティー事業者は、自動運転車を購入する顧客になると同時に、最も利用者に近い場所にいることにより、絶大な発言力を持つことになるでしょう。こうした自動車ビジネスの方向性を察知した欧米の自動車メーカーの数社は、自らがモビリティー事業者になることを既に表明しています。