価値の源泉はものづくりからサービスへ

――自動運転車の実現によって、自動車ビジネスのかたちはどのように変わるのでしょうか。

野辺氏 自動運転の実現に向け、当面2つのイノベーションの方向性が共存します。多くの人が個人で所有している自家用車の自動化が徐々に拡大する「継続的イノベーション」と、モビリティー事業者が完全自動運転車を保有し、ユーザーに移動を提供する「破壊的イノベーション」です。

 完全自動運転になるとドライバーがいなくなります。すると自動車ビジネスが、ドライバーにクルマを買ってもらう売り切りビジネスから、人やモノに移動手段を提供するサービスビジネス(モビリティーサービス)へと移行します。この「破壊的イノベーション」が最近急激に重要性を増しています。

 特に2017年7月にグーグルがレンタカーサービス大手のエイビスと提携し(独占的ではない)、並行してリフトが競合する複数の企業とパートナーシップを拡大していることが注目されています。こうしたこれまでの事業範囲を超えた、全く新しい合従連衡を形成する動きが欧米では毎日のようにニュースになっています。

――個人にクルマを売るビジネスではなくなるのですか。

野辺氏 なくなるわけではないと思います。今後、個人が所有するクルマにもより高度な自動運転機能が浸透するものと思われます。ただし、最後の最後にあくまでもドライバーが責任をもって運転し、必要に応じて選択的に自動運転に切り替えて使うといった位置づけになり、そうしたクルマを個人に売るビジネスは引き続き残るでしょう。

 スポーツカーのように人が真剣に運転したり所有したりすることに魅力があるクルマはより高いニーズを引き出すでしょうし、途上国などでこれからクルマの所有が発生する地域での販売は拡大するでしょう。人口密度が低くモビリティーサービスが成立しにくい市場では、引き続き個人にクルマを売ることになるでしょう。

 一方、完全自動運転を利用したモビリティーサービスは、もちろん一部個人所有のクルマを置き換える可能性があります。しかし、これまでには無かった全く新しい市場を追加的に形成するという視点が重要です。例えば通勤や長距離移動には大量輸送の電車やバスを用い、最寄りの駅から家までのラストワンマイル(約1.6km)の範囲で完全自動運転車をタクシーの代わりに利用するような新しい移動手段を提供することになるでしょう。もちろん高齢者のライフラインにもなります。現在、タクシー事業はコストの約7割が人件費です。完全自動運転車ならば、運賃を大幅に下げることができ、利用も拡大するでしょう。

――完全自動運転車は、公共性の高い交通手段という位置づけなのですね。

野辺氏 その通りです。その上で、完全自動運転の特性を生かした、全く新しいタイプの移動サービスの登場が重要になります。例えば、最近宅配サービスの再配達が問題になっていますが、宅配を受け取る利用者が帰宅の際に、最寄りの駅から自宅まで利用する完全無人タクシーに宅配事業者が荷物を事前に載せておけば、その利用者が家の中まで持ち込んでくれ、いわゆる"ラスト50フィート問題"も解決します。さらにこの場合、宅配の輸送費用を事業コストとして賄っているわけですから、人が乗る運賃をさらに低減可能で一石二鳥です。

 長距離移動に完全自動運転車を活用するサービスも出てくるかもしれません。例えば、東京に住んでいる人が朝9時に大阪で開かれる会議に出席する場合、今ならば新幹線や飛行機で前日に移動し、前泊する方も多いでしょう。今後は完全自動運転車に夜中に乗り込み、高速道路を寝ながら移動するようなことも可能になるかもしれません。また、それにより客を奪われかねないビジネスホテル事業者は、今は立地型が当たり前であるホテルを移動型ホテルに転換するといった、全く新しいサービス事業を生む可能性もあります。