自動運転車の開発現場で見かける実験車は、市販車にセンサー類を取り付けたものである。実験車両では、自動車内部に多数組み込まれている各種のECU(電子制御ユニット)に自動運転ソフトが電子的な命令を伝えて運転操作する。自動運転車の登場には、人間の頭脳や眼の役割を果たす自動運転ソフトや各種センサーの高度化に加えて、走る・止まる・曲がるなど自動車の電子制御が進展していたことも深く関係している。自動運転ソフトがセンサーを用いた自車位置推定/周辺認識処理データを使って運転操作を判断することも電子処理であり、自動運転は自動車の電子制御化の延長線上にあるともいえる。自動車の電子制御に精通し、技術研究組合 制御システムセキュリティセンターの理事長も務める電気通信大学の新誠一教授に、自動車の電子制御の発展経緯と今後を聞いた。

――世界中で自動運転の開発競争が活発化している。きっかけは何か。

 自動運転の取り組みは最近始まったわけではない。1990年代から続いている。当初はセンサーを埋め込んだ「自動運転専用道路」を作り、道路と車両の情報交換と車両の自律制御によって、自動運転の実現を目指した。1996年には上越自動車道で完全自動運転の走行実験に成功している。今のレベル1やレベル2の基本技術は、この段階で実現できていたといえるだろう。

電気通信大学の新誠一教授
電気通信大学の新誠一教授

 当時の自動運転で目指したのは、ドライバーを支援する自動運転機能を一つ一つ作って市販車に組み込むことだった。目的は安全性確保とドライバーの負荷軽減。当時は「ASV」(Advanced Safety Vehicle)と呼んでいた。

 検討を進める中でわかってきたのは、自動運転機能を実現するには自動車に高性能センサーをいくつも組み込む必要があり、大きなコストがかかること。また、当時は自動運転に対する社会的ニーズが明確でなかった。ユーザーが自動運転を求めていなかったし,自動運転に対する法律や保険などの社会制度も整っていなかった。

 今は状況が変わった。きっかけの一つは米Google(グーグル)が3次元地図を使った自動運転の開発に乗り出したこと。高精細な3次元地図があれば、自動車側が持たなければならないセンサーなどが少なくて済むため、機器コストはぐっと軽くなる。こうした発想は自動車会社にはなかった。このインパクトは大きく、これで完全自動運転車の実現が見えてきた。

 ユーザーニーズも大きく変わった。高齢化が進んだことでドライバー不足が現実になり、過疎地などでの交通弱者の問題が深刻になってきた。この社会状況が自動運転に対する期待を膨らませている。

――自動運転の開発はどのように進められているのか。

 現時点の自動運転の開発は二つの方向性がある。一つは、市販している自動車に「自動運転技術」を一つずつ実装する作業を積み重ね、ドライバー支援を発展させた形で自動運転の能力を高めていくやり方である。ドライバーの存在を前提とする自動運転のレベル2やレベル3に該当する。

Googleが開発を進める「Self-Driving Car」(写真:Google)
Googleが開発を進める「Self-Driving Car」(写真:Google)

 もう一つは、最初からドライバーレスの完全自動運転車を作ることを目的とした開発だ。こちらはGoogleの「Self-Driving Car」の登場で開発競争が一気に加速した。レベル4の領域だ。

 ドライバーの存在を前提とする開発と、ドライバーレスを前提とする開発は条件と優先すべき事項に違いがあるため、独立に進められている。もちろん、両方に重なる技術分野もあるが、今はそれぞれの開発が独立に並行して進められている状況にある。