前野 だから、濱口さんはソーシャルイノベーションにはあまり携わらないと。

濱口 たまにNPOの仕事を手掛けるときは、相当な覚悟をして入っています。そして、イノベーションよりも、まずは価値尺度の構造をつくるところから始めます。数字にできない難しさがあるので、本気で覚悟して取り組まなければなりません。ここができれば、目的が明確になるので、イノベーションが生まれるようになります。

前野 なるほど。ソーシャルイノベーションのポイントは、目的を具体的につくることなんですね。

濱口  NPOでうまくいくケースに「営利目的もどきで動く」というのがあります。それならば、「社会のため、地域のため」という革新はいくらでもできるんです。僕がソーシャルイノベーション論を説くなら、革新を起こす方法よりも「まずは目的、その目的をちゃんと構造化して捉えることが必要だ」と言いますね。一方でソーシャルイノベーションを志す人は「パッション」がある。これは良い部分です。

前野 そうですね。パッションは誰にも負けないかもしれない。

濱口 ただ、パッションがありすぎる人たちが良いことをやろうとしているのに、お互いケンカし合うことがあまりありません。それから、ときにパワーがない人がいますね。よくあるのが、今の資本主義社会の中で活躍できないからソーシャル側に逃げてきている人です。

前野 それは要注意ですね。ソーシャルイノベーションでは「目的」と「パッション」がポイントでもあり、難しさでもある。

濱口 「目的」と「パッション」ということで言えば、前野先生が研究している「幸福論」にもつながると思います。幸福論は、目的とパッションを生むでしょう? 大学のイノベーション教育ではプロセスの話を教えることが多いと思いますけど、幸福論とつなげてパッションも教えて、バランスをとっていくのもいいんじゃないですか。

前野 僕もそう思いました。イノベーション教育と、僕自身の幸福の研究は別個のものなので、いままでつなげていなかった。すごく勉強になりました。ちなみに濱口さんがソーシャルイノベーションのほかに請けない仕事はあるんですか?

濱口 もちろん、実際は仕事として請けますけど、クルマ関係はあまり…。

前野 え? それはどうして?

濱口 僕ね、クルマがむちゃくちゃ大好きなんですよ。だから、提案が僕のバイアス(先入観)まみれになっちゃう…。

前野 (笑)!

(写真:稲垣 純也)
(写真:稲垣 純也)
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(濱口さん編、終わり)