濱口 競輪選手は、むちゃくちゃ速く自転車を走らせることができます。でも、乗っているのはあくまで自転車で、ママチャリと競技用の違いはあるかもしれないけれども、基本構造は同じです。競輪選手も最初はきっとママチャリからスタートしたはず。スピードは違っていても、自転車に乗れる人は東京から大阪まで行けるんです。そもそも実際に乗る経験もせずに「どうも乗れない」と言って諦めているのはないでしょうか。
前野 確かに、そういう人はたくさんいますよね。
濱口 冷静に考えてみてください。大学で先生がノウハウを教えて、3日や半年学んでできるんだったら、イノベーションを起こしまくる人が、世界中でたくさん出てきますよ。そんなのあり得ない。ユートピアというか、青い鳥を追い求めすぎです。
前野 その話は、イノベーション教育に携わる者として反省しちゃいますね…。「いろいろな方法論を教えたら設計できるようになる」というような講義をやり過ぎているから、ものすごく簡単なことを長時間やり続けるという教え方に慣れていないんです。
濱口 自転車に乗れるようになったら、その先に、ようやく高速で走ったり、ウィリー走行したりするようなテクニックが出てくる。イノベーションで言えば、ストーリーの設計や、ユーザーに認知される方法といったものです。でも、指をくわえて自転車を見ているだけの人にテクニックを説明しても何にもならない。
前野 今の話を聞いて、僕も自分で特訓し続けようと思いました。自転車に乗れていないといけないですからね。逆に言うと、自転車に乗れていないのに教える立場にある人も多い。イノベーションを起こしていないのに、見よう見まねでプロセスを教えている教員も結構いるわけです。
濱口 もちろん、イノベーションについて分析したり、研究したりする役割の人も必要だと思うんです。多くの人が「イノベーション、イノベーション」という言葉を語ることも、世の中の空気ができるからいいと思う。ただ、実際にやってみたことがない人が、一生懸命にイノベーションを語るのは詐欺やと思うんです。
前野 でも、自分が乗れるようになったということは、どうやったら分かるんですか。自転車だったら、ビューって走れば分かるけど。
濱口 自転車と同じように体感で分かるようになりますよ。思い付いたアイデアを話すと、周りの人が「すごい、めっちゃおもろい!」という反応をしますし、自分でも感覚だけでなく論理的に常識を壊しているのが分かるので、左脳で考えても、右脳で考えても面白いと思えます。
前野 話は変わるんですが、僕は幸せの研究をしているので、社会的な課題を解決するソーシャルイノベーションに興味があります。濱口さんは、ソーシャルイノベーションの取り組みをどう捉えていますか。