濱口 理論を説明してもらったら、キコキコと自転車に乗れるようになると思っている。乗れるわけないでしょう? 座学で自転車について学んでも乗れるようにはならないです。

前野 実際に乗ってみないといけない。

濱口 そうです。実際に乗ってみる前提で、先ほどと同じように3段階の教え方を考えてみましょう。

 まず教えるのは、「足もとを見たらグラグラするから、行きたい方向を見ろ」ということ。これが結構重要なんです。「目的地を見よ」ということですね。

 次は「スピードを出せ」です。目的地を見ていても、あまりにもゆっくり行こうとしたら、こけます。遠くを見て、怖いけれど、ある程度のスピードを出したらこけなくなる。だから、スピード感が大切です。

 もう一つは、何だと思います? 「行きたい方向を見なさい」とお父さんに言われて自転車に乗ります。それで、「ちゃんとスピード出せよ、怖いけど」と、後ろから押されると…。

濱口秀司(はまぐち・ひでし)<br>米Ziba Design社Executive Fellow、monogoto代表。大阪生まれ。京都大学卒業後、松下電工に入社。研究開発、全社戦略投資案件の意思決定分析担当などを経て、1998年米国コンサルティング会社Zibaに参画。世界初のUSBフラッシュメモリーをはじめとする数々のコンセプトづくりをリード。IDEA金賞など数々のデザイン賞を受賞。その後、パナソニック電工の新事業企画部長、同社米国研究所の上席副社長、米国のベンチャー企業のCOOを歴任し、 2009年Zibaにリジョイン。2013年より自身の実験的ビジネスデザイン・ファーム「monogoto」代表を務める。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科特別招聘教授。京都大学デザイン学特命教授。大阪大学医学研究科招聘教授。ドイツ「レッドドット・デザイン賞」審査員。イノベーション・シンキングの世界的第一人者(写真:稲垣 純也)
濱口秀司(はまぐち・ひでし)
米Ziba Design社Executive Fellow、monogoto代表。大阪生まれ。京都大学卒業後、松下電工に入社。研究開発、全社戦略投資案件の意思決定分析担当などを経て、1998年米国コンサルティング会社Zibaに参画。世界初のUSBフラッシュメモリーをはじめとする数々のコンセプトづくりをリード。IDEA金賞など数々のデザイン賞を受賞。その後、パナソニック電工の新事業企画部長、同社米国研究所の上席副社長、米国のベンチャー企業のCOOを歴任し、 2009年Zibaにリジョイン。2013年より自身の実験的ビジネスデザイン・ファーム「monogoto」代表を務める。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科特別招聘教授。京都大学デザイン学特命教授。大阪大学医学研究科招聘教授。ドイツ「レッドドット・デザイン賞」審査員。イノベーション・シンキングの世界的第一人者(写真:稲垣 純也)
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前野 転倒する。

濱口 そう、こけます。ひっくり返るとすごく痛い。でも、こける瞬間のグラグラっていう感覚が分かってくると、絶対に乗れるようになりますよね。「俺は、一度も自転車でこけたことがない」という天才は、競輪選手でもいない。だから、「アイデアがうまく出てこなかった」「社長にプレゼンしたら『アホ!』と怒鳴られた」というのがすごく重要です。

前野 ああ。自転車の乗り方は、分かりやすいアナロジーですね。

濱口 とにかく「考えていないで、はよ走れ!」ってことなんです。自転車だったら3日、もしかしたら3時間で乗れるようになるんですけれど、イノベーションはもっと時間が必要です。それなのに途中でやめちゃうからいけない。

前野 世の中のすごいイノベーションを見ていると、「自転車ではなく、より難しいヘリコプターの操縦ができるようにならなければ…」と勘違いしてしまうのかもしれないですね。