慶應義塾大学大学院の前野隆司教授と、米monogoto社 の濱口秀司さん対談の第3回。「誰でもイノベーションが起こせる」と言ってはばからない前野教授は、前回初公開となった「イノベーションの5P」の一つ「Potential=能力」について濱口さんにその真意をただす。能力が必要だとしたら、能力があるかどうかをどうやって見極めたらいいのか。濱口さんは、実際に手掛けたZibaの採用試験を例に挙げ、「ポテンシャル」の判定方法を披露してくれた。

イノベーションの「向き」「不向き」

前野 前回、「イノベーションの5P」の一つとして「ポテンシャル」の話が出ましたが、ポテンシャルの有無、つまりイノベーションを起こすに当たっての向き・不向きというのはありますか。

前野教授と濱口さん(右)(写真:稲垣 純也)
前野教授と濱口さん(右)(写真:稲垣 純也)
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濱口 あります。人間の脳には構造的に考える論理的な瞬間と、ぼんやりと考えるカオスやランダムな瞬間があります。よく言われる「右脳と左脳」です。

 「ワイガヤでやるとアイデアが生まれる」「さあ、今からディスカッションをやろう。ひとり1分ずつ発表してください」といったことが創造性につながると思われていますが、これは間違い。ワイガヤなんかでええもんは生まれてきません。

 1998年に僕はこんな発表をしています。何となくロジカルな思考をしていて、かつポンチ絵を書くときのようなラフな直感が混じっているような脳の構造・モードにあるときが最も創造性が高い状態なんだとね。これは現象論であると同時に、僕の方法論にも直結していて、いかに脳の状態をそのモードに持っていくか、どうコントロールするかというのが大切なんです。

 面白いのは、このモードは山の上にボールを置くようなものでツルツル滑って安定しない。脳みそをコントロールして真ん中にボールを持ってくるのが難しい。つまり、この真ん中がスイートスポットなんですよ。ただ、スイートスポットをコントロールできる人は少ない。

前野 大多数はスイートスポットを操れないと。

濱口 多くの人がスイートスポットを操れるのならば、どの会社でもイノベーションを起こせるはずですよね。でも、実際の人口分布は、「何となくロジカルが好きな人」と、「何となく直感が好きな人」がそれぞれ多い「フタコブラクダ」の形になっています。

 超ロジカルでコンピューターのように考える人も少ないし、直感ばかりの人も少ない。二つの山の溝になっている部分がスイートスポットなので、そこにいる人はなかなかいないんです。

 スイートスポットにいる人はものすごくポテンシャルがあって、職業でいえば建築家なんかが近いかもしれません。芸術性を要求されながら耐震などの構造設計もしなければなりませんから、建築家は割と真ん中に近いです。僕の仕事仲間で過去最強のコンビだった米国人は建築出身なんですよ。芸術系に進むような人は直感側が近いし、工学系には論理側が多い。僕が見つけたいポテンシャルの高い人は、その真ん中のスイートスポットにいる人です。