「イノベーションを語るならば、まずは濱口さんにお話を伺わなければ」。慶應義塾大学大学院の前野隆司教授が「彼は天才」と呼ぶ濱口秀司さんは、世界で活躍するイノベーターだ。USBメモリーやイントラネットをはじめ、数多くの画期的なコンセプトで革新を起こしてきた。濱口さんは、いかにしてイノベーションを起こし続けているのか。今回は、天才の頭と心の中にある秘密を探ることに。実は濱口さんと前野教授は、理系のメーカー出身者であるにもかかわらず、現在は必ずしも理系とはいえない舞台で大活躍しているという異色の経歴をもつ共通項がある。果たして、どんな話が飛び出すか。

見た瞬間に「それ何なの?」という反応

前野 お久しぶりです。相変わらず、世界中でご活躍ですね。今回、日本にいらしたのは、もしかして日本企業と一緒に何かイノベーションを仕込んでいたりするんですか。

濱口 はい。詳しくは言えませんが、ちょっとイノベーティブなものを仕込んでいます。その商品のコンセプトによって会社のブランドが大きくシフトするようなイメージですね。

前野教授と濱口さん(右)(写真:稲垣 純也)
前野教授と濱口さん(右)(写真:稲垣 純也)
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前野 コンセプトでイノベーションを?

濱口 あまりにも新しいコンセプトなので、「そんなすごいことやって、本当に需要はあるのか」とか、「まさか、こんなことが考えられるなんて!」とか言われています(笑)。

前野 いやー、楽しみだな。どんなコンセプトなんだろう。でも、そんなふうに言われるということは、イノベーティブな取り組みは理解されにくいということですね。

濱口 イノベーティブな取り組みは、すごく不確実性が高い。コンセプトを提案した時に「そんなん、知ってるわ」とか、「それやったらできるわ」と言われる取り組みは、イノベーティブとはいえません。見た瞬間に「それ何なの?」という反応が返ってきてこそ、イノベーティブなわけです。

前野 なるほど。ほとんどの人が「何だ、それ?」と感じるんですね。

濱口 不確実性が高いということは、非常に意思決定を下しにくい。例えば、5人くらいのすごいプロフェッショナルや経営幹部が集まった場で僕の提案を見ると「この商品は、確かにすごい」と最初は驚きます。でも、その後に議論が紛糾して喧々囂々たる状況が始まるんです。「これを出したら、ユーザーに本当にウケるんやろか。今の商品を本当にやめていいんやろか」と。

前野 その議論で結論は出るのですか。

濱口 議論が始まってから2時間くらい経った頃に、こう話します。「これは新しい発想、すなわち今までの常識が通用しない世界の話なので、みなさんが5日間語り続けても答えは出ないですよ。みなさんが知っている事業分野で出すもので、従来通りのルールで2時間本気で話したら、成功するか失敗するかを判断できると思いますが」って。

前野 そのとき、どういうふうに説得するのですか。