「スピードで逃げ切る 」は昔の方法

濱口 昔は「スピードで逃げ切る」が新しいアイデアを守る方法でしたが、最近は少し違っていて「価値を変えること」が守る方法だと思っています。

 「従来の商品やサービスよりも技術的に優れています」というだけでは、すぐに真似されてしまう。例えば、「この洗濯機は、既存商品の2倍のスピードで洗える特徴があります」では簡単に真似されて、結局は追い付かれます。

 でも、真似されないものが一つだけあって、それは機能でもないし、意匠デザインでもない。いわゆる意味性、ストーリー性なんです。ストーリーは真似できない。

 エナジードリンクの「レッドブル(RedBull)」ってありますよね。このブランドの競合として仮に「レッドドッグ」という商品が出てきたとしても、それは消費者にはモノマネ商品に見えるんですよ。なぜかと言えば、レッドブルにはブランドストーリーがあるからです。

 例えば、レッドブルは、数多くのエクストリームスポーツを支援しています。ドリンクにタウリンが入っているからということもありますが、デザインもかっこよくて、人間の限界に挑戦するスポーツを応援するという意味でスポンサーをしまくっているんです。

前野 なるほど。

濱口 後で出てきたレッドドッグがそのストーリーを真似するために、いろんなスポーツをスポンサードしたとしましょう。でも、どんなにうまく真似をしても、複製したストーリーは明らかに偽物という印象を拭えません。絶対に真似はできない。

 だから、新しいアイデアやコンセプトを本当に守ろうと思ったらストーリー性のような無形のもので守るしかない。いわば、人間の頭が勝手に認知するというか、数字にできないものや、複製しても意味をなさないもので差異化するということですね。

前野 「コカ・コーラ」と「ペプシコーラ」くらいになると、どっちが先か分からないけど、どちらかのストーリーが似ちゃった、真似できちゃったということですか。

濱口 あれは、かなり古い時代のことで、人々に情報が伝わるのに時間がかかっていたから二本立てになっちゃいましたけど、最近はソーシャルメディアやテレビで一気に口コミが広がるので、本当に真似をすることが難しいですよ。

 ただ、特殊なケースはあります。例えば、米国で流行している商品やサービスを日本に持ってくるというパターンです。僕は米国のポートランドに住んでいますが、ポートランドで流行しているドーナツショップやコーヒーショップやアイスクリームを日本に持ち込むようなタイムマシーン経営は可能性があると思います。でも、これはイノベーションではありません。

(写真:稲垣 純也)
(写真:稲垣 純也)
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