濱口 100人に見せてアイデアが漏れた後に何が起きるでしょうか。二つのケースが考えられます。

 まず、100人に見せたけれど誰ひとりとして「良い」と言わないケースです。この場合、情報が漏れて何か被害はありますか。せいぜいライバルが知って、「あの会社、アホやな」って笑われるだけ。ブランドは毀損しないし、今売っている商品の売り上げが落ちるわけでもありません。

 もう一方は、40~50%の人が「むちゃくちゃ良い!」という反応を示すケースですが、この場合は担当者全員が自信を持つようになるので、「もっと早くやらなければ」とプロジェクトの進行は加速しますよね。新商品の噂も追い風になることが多いです。もちろん、少しくらい情報が漏れてもやっちゃったほうが良い企画しかしていないというのもあるのですが。

 「売れると分かっていれば、人はもっと一生懸命やるから、結局、どっちに転んでもいいじゃないですか」と説得するんです。そうすると、「確かにそうだ。もう俺らの会議をやめて、この費用で調査をしよう」となるんです。

前野 確かに、会議を長々とやっていてもね。

前野 隆司(まえの・たかし)<br>慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。1962年山口生まれ。広島育ち。1984年東京工業大学工学部卒業、1986年東京工業大学理工学研究科修士課程修了、同年キヤノン入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て、2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990〜1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。著書に『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4894519429/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4894519429&linkCode=as2&tag=techon-22" target="_blank">脳は記憶を消したがる</a>』(フォレスト出版)、『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4062177420/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4062177420&linkCode=as2&tag=techon-22"  target="_blank">「死ぬのが怖い」とはどういうことか</a>』(講談社)、『<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4062882388/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4062882388&linkCode=as2&tag=techon-22" target="_blank">幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)</a>』(講談社現代新書)、<a href="http://www.amazon.co.jp/gp/product/4822249948/ref=as_li_tf_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4822249948&linkCode=as2&tag=techon-22" target="_blank">システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」</a>』(日経BP社)など多数。(写真:稲垣 純也)
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前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授。1962年山口生まれ。広島育ち。1984年東京工業大学工学部卒業、1986年東京工業大学理工学研究科修士課程修了、同年キヤノン入社、1993年博士(工学)学位取得(東京工業大学)、1995年慶應義塾大学理工学部専任講師、同助教授、同教授を経て、2008年よりSDM研究科教授。2011年4月よりSDM研究科委員長。この間、1990〜1992年カリフォルニア大学バークレー校Visiting Industrial Fellow、2001年ハーバード大学Visiting Professor。著書に『脳は記憶を消したがる』(フォレスト出版)、『「死ぬのが怖い」とはどういうことか』(講談社)、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門 (講談社現代新書)』(講談社現代新書)、システム×デザイン思考で世界を変える 慶應SDM「イノベーションのつくり方」』(日経BP社)など多数。(写真:稲垣 純也)

濱口 それから一般的には、いろいろなことを知りたいからどうしてもユーザーの受容性調査をやってしまう。「この部分はウケる。これはウケない。これをこうするとこの商品は良くなる」というようなね。

 でも、実際は、そんなこと聞きたくも、知りたくもないんですよ。知りたいのは「この商品が売れるか、売れへんか」だけです。そういう調査をみんなやらないので、僕が米国で昔からやっているこの手法を日本企業に対しても提案しています。

前野 特許が漏れてしまうという心配はないんですか。

濱口 テクニカルな面で言えば、特許については漏れる。でもね、特許で守れるケースなんて、ほとんどないですよ。特許を出す意味は、「ほかの会社から訴えられない」ということです。それがむちゃくちゃ売れたときに、後出しで「俺が考えたんや」といちゃもんをつけてくる相手に100億円の儲けを半分持っていかれることがある。特許は、その防御のために出すものです。

前野 本当に守りたかったら?

濱口 本格的に技術を特許で守ろうとしたら、100件くらいの特許を用意して、周辺を特許の壁で囲わなければなりません。それくらい突っ込まないと守れない。だから、海のものとも山のものとも分からないビジネスを、何千万円も掛けて特許で守るという取り組みにはよっぽどの技術でない限りは経済合理性がないと、僕は思っているんです。

前野 新しいアイデアやコンセプトを守る方法というのはないんですか?