濱口 「プロトタイプを作って100人に見せてしまいましょう」と提案します。「ベータ100」と呼ぶ取り組みです。

前野 グループインタビューのようなものですか。

濱口 いいえ、ベータ100はユーザーの受容性調査ではありません。グループインタビューをして、「どの機能が受け入れられそうか」「値段はいくらくらいがいいか」「どんな商品に仕立てると売れそうか」を調べるのではありません。完全なプロトタイプを作り、必要であれば模擬店舗を作ってパッケージプロトタイプを置き、そこに100~200人を呼びます。

 テレビコマーシャルのようなイメージビデオを見せたり、商品広告を挟み込んだリアルな雑誌を見てもらったりするなど、その商品が売られている状況、購買意思決定の瞬間を疑似体験してもらって「本当に買うかどうか」を確認するのです。全く新しいコンセプトでも、仮に100人呼んだうちの40人が「絶対買います」と言えば、シェア40%ということになりますよね。

 ものすごく高い給料をもらっている社内の賢い関係者が2時間も議論する費用があるのなら、プロトタイプを作ってたくさんの人に見てもらったらいいじゃないですか。最近は、3Dプリンターを使ってプロトタイプは簡単に作れるし、コマーシャル映像も安く作れる。だったら見せてしまった方が不確実性が減りますよ。

濱口秀司(はまぐち・ひでし)<br>米Ziba Design社Executive Fellow、monogoto代表。大阪生まれ。京都大学卒業後、松下電工に入社。研究開発、全社戦略投資案件の意思決定分析担当などを経て、1998年米国コンサルティング会社Zibaに参画。世界初のUSBフラッシュメモリーをはじめとする数々のコンセプトづくりをリード。IDEA金賞など数々のデザイン賞を受賞。その後、パナソニック電工の新事業企画部長、同社米国研究所の上席副社長、米国のベンチャー企業のCOOを歴任し、 2009年Zibaにリジョイン。2013年より自身の実験的ビジネスデザイン・ファーム「monogoto」代表を務める。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科特別招聘教授。京都大学デザイン学特命教授。大阪大学医学研究科招聘教授。ドイツ「レッドドット・デザイン賞」審査員。イノベーション・シンキングの世界的第一人者(写真:稲垣 純也)
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濱口秀司(はまぐち・ひでし)
米Ziba Design社Executive Fellow、monogoto代表。大阪生まれ。京都大学卒業後、松下電工に入社。研究開発、全社戦略投資案件の意思決定分析担当などを経て、1998年米国コンサルティング会社Zibaに参画。世界初のUSBフラッシュメモリーをはじめとする数々のコンセプトづくりをリード。IDEA金賞など数々のデザイン賞を受賞。その後、パナソニック電工の新事業企画部長、同社米国研究所の上席副社長、米国のベンチャー企業のCOOを歴任し、 2009年Zibaにリジョイン。2013年より自身の実験的ビジネスデザイン・ファーム「monogoto」代表を務める。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科特別招聘教授。京都大学デザイン学特命教授。大阪大学医学研究科招聘教授。ドイツ「レッドドット・デザイン賞」審査員。イノベーション・シンキングの世界的第一人者(写真:稲垣 純也)

前野 でも、新しすぎるコンセプトは、「40%の人が買う」という結果にならないことも多いのでは。

濱口 そうならなかったら、それは提案したコンセプトが弱いんです。Panasonic、Ziba時代から一貫して僕が狙っているのは、マスに受けるイノベーションを起こすこと。僕は一応プロなので、それをやると絶対売れるはずだと思っています。実際、僕なんかは調査をしないで突っ込むこともありますし(笑)。ただ、会社組織としては形のあるものを見せた方が説得力があるので、そこはやります。

前野 確かに、結果を実際に見られるのはいいですね。

濱口 みんな、「お守りをもらった」と喜ぶんです。担当者本人に自信が付くと経営幹部に説明するときに机をたたいて「絶対にいけます!」って言えるメリットもあります。ところが経営幹部は「100人に見せたらあかんやろ。漏洩するやん、外部にばれるやんか」という反応をする場合があります。僕はその場で一瞬、黙って「話がおかしくないですか」と言います。

前野 ああ、最初に見たときと経営陣の立ち位置が変化している。

濱口 そうなんですよ。「さっきまで『このコンセプトがウケるかウケへんか分からない』と疑いの眼で見ていたのに、『漏れたら困る』っておかしくないですか」ってね。

前野 でも、確かに情報漏洩の心配がないわけではないでしょう。