「怒り」は自分の中で大切にしていまして
前野 栗原さんの「生涯イノベーション」を聞いてみたいんですけど。
栗原 例えば、携帯電話の値引きが禁止され、定価販売を余儀なくされた時期があります。しかし、「お客様との相対での値引きはOK」だったので、自動値段交渉マシーン「アイタイ君」を作りました。画面にタッチすると最初は定価が表示されるんですけど、質問に答えて簡単なゲームに勝つと0円になるんです。これなら文句をいわれません。値引きメガネも作りました。当時、安売りしていないかを巡回してチェックする人が店舗に来るんです。安値表示してると隠し撮りされて後で怒られる。そこで、写真を撮られても定価表示なんだけど、特殊なメガネを掛けると0円に見える「値引きの色メガネ」を作りました。
17年ほど前に携帯ショップを始めるときに今でいう「ゆるキャラ」を使ったこともそうですね。それは、ゆるキャラのはしりでもあるし、ほかではやっていなかったことなので「生涯イノベーション」に入ると思います。でも、そのスタートも実は「怒り」だったんです。
前野 介護施設の時と同じ「怒り」ですか。
栗原 当時の携帯電話販売店は白い壁紙の部屋に事務机が置いてあって、店員がボーッと座っているだけで全くワクワクしませんでしたから、怒りが沸々と。
前野 その「怒りのパワー」で「ゆるキャラ」を使ったり、面白いお店を考えたりしたのですね。
栗原 「怒り」は自分の中で大切にしていまして、「怒り」をワクワクに変えたいと思っています。素の自分は喜怒哀楽がそれほど激しくはありませんので、あえて増幅もしています。ちょっとした怒りを感じたら思い切り大げさに表現をしますが、それは社内のマネジメントでもやっていまして、「喜怒哀楽を僕に合わせて欲しい」と言っています。
前野 社員全員の喜怒哀楽を社長に合わせるということ?
栗原 はい。僕はマニュアルや勉強よりも喜怒哀楽さえ合っていれば、会社で大きな間違いは起こらないと思っています。どういうときに悲しんで、どういうときに喜ぶかということが社員全員で合っていないから大きな問題が起こったり、あるいは意思疎通が図れなかったりするんだと思うんです。
前野 だから栗原さんの会社では社員参加の「仮装大会」「ギネスに挑戦大会」「富士登頂大会」を開催して「喜ぶ力」を養っているのですか。
栗原 あえて言えば「苦しみ」でしょうか。「苦しさ」をいかに「喜び」に変えるかという体験をして欲しいんです。毎年、社員さんとコスプレして富士山に登っていますが、僕は体を動かすのが苦手なので行く前は毎回ブルーになるのです。つらいのを我慢して富士山の頂上に立ったときに、僕はつい上司目線で言いたくなっちゃうセリフがあるんです。
前野 それは?
栗原 「ちょっと見てみろ、このきれいな景色。どんなつらいことも歯を食いしばってがんばれば、こんな素晴らしい世界が待っているんだぞ」って。でも、それはうそです。仕事や人生において、どんなにがんばっても全く景色がなかったり、土砂降りだったり、スカということもしょっちゅうで、「がんばれば必ず報われる」というのはうそです。だから「報われること」を目標にすると失望が待ち構えていますし、結果ばかり意識しすぎるからプロセスがつらくなる。
前野 確かに。