慶應義塾大学大学院の前野隆司教授と、「株式会社あなたの幸せが私の幸せ(以下略*1)」 創業者の栗原志功さんによる対談の第3回。イノベーションに不可欠な要素が「ワクワク」という栗原さんは、米国大統領をお迎えしてフラを踊ることで介護問題を解決しようとしている。さらにサンタの服やセーラー服を着て自分で自分を驚かせ、日常を非日常とすることで次の行動のトリガーとするという。奇抜とも映る栗原さんの考える問題解決方法に前野教授が幸福学からアプローチする。
(写真:加藤 康)
(写真:加藤 康)
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老人だけを1カ所に集めるのは変じゃないかと

前野 栗原さんは介護業界に打って出るんでしょう? それは、携帯電話販売事業でひと儲けしたので(笑)、次は介護という社会課題を解決しようということですか。

栗原 きっかけは90歳を過ぎた僕の祖母なんです。骨折してリハビリのために入った施設で祖母も、その施設で働いている人も楽しそうに見えなくて、次第に「こんな施設を造って、大切な税金を使って、何やってるんだよ!」と怒りに変わったんです。それと介護施設って、高齢の人々ばかりを集めていますが、それって実は不自然じゃないかと思うんです。

前野 なぜですか?

栗原 世の中はいろんな世代の人が集まって、楽しく助けあって生きていくのが本来の姿なのに、老人だけを1カ所に囲うように集めるのは変じゃないかと。

前野 「高齢者のための介護施設を造ろう」というのは悪いことではないけれど、楽しさのような全体発想が抜けているということかな。しかも、普通の人はそれを当然と思ってしまう。

栗原 だから僕は新しい地域コミュニティーをつくりたいと思いました。それは介護だけではなく、子育てや高齢者の知恵の伝承、高齢者同士の助け合いも含めて、昔だったら当たり前の、地域、家族含めてみんなが助け合いの中で行われる、「当たり前の世の中」です。勝手に誰かが決めた今の仕組み上にある老人ホームやデイサービスをぶち壊したい。それは障害者向けの施設も含めてですけどね。

前野 すばらしい。

栗原 そのプロトタイプとして、「どういう状態が1番楽しそうかな」と考えたときに、「みんなでハワイに行って、介護フラを踊るのがいいんじゃないか」と。

前野 「介護フラ」とは?

栗原 高齢者や車いすの方、お子さんなどで踊るフラダンスです。

前野 その「介護フラ」の発想は、突然湧いてきたの?

栗原 ハワイを先に思いつきました。

前野 フラはハワイの踊りだものね。

栗原 祖母が骨折をしたときに「がんばってリハビリをしよう」と話すと、「歳だし、もうすぐ死ぬんだし、もういいよ」と言うんです。たまには「よし、がんばろう」という日もあるものの、次の日は「もういい」と言う。そんな祖母を見ながら、「祖母にとって夢や希望とは何だろう」と考えたとき、祖母の若い頃を思いました。

 高齢者の若い頃の憧れの国はたぶんハワイだったのではないか。「トリスを飲んでハワイに行こう」「憧れのハワイ航路」などがありますよね。ならば、その若い頃の夢や希望をもう1度提示することで若返るのではないかと思いました。だから新しく始めるデイサービス施設のコンセプトはハワイにしようと決めました。でも、ハワイだけでは少し弱いと思いまして、いろいろと調べている中でフラの奥深さを知り、取り入れました。

前野 フラっていろいろな意味が踊りの中にあるそうですね。

*1 正式社名は、「株式会社あなたの幸せが私の幸せ。世の為人の為、人類幸福、繋がり創造、即ち我らの使命なり。今まさに変革の時。ここに熱き魂と愛と情、鉄の勇気と利他の精神を持つ者が結集せり。日々感謝、喜び、笑顔、繋がりを確かな一歩とし、地球の永続を約束する公益の志溢れる我らの足跡に歴史の花が咲く。いざゆかん!浪漫輝く航海へ!」