老人だけを1カ所に集めるのは変じゃないかと
前野 栗原さんは介護業界に打って出るんでしょう? それは、携帯電話販売事業でひと儲けしたので(笑)、次は介護という社会課題を解決しようということですか。
栗原 きっかけは90歳を過ぎた僕の祖母なんです。骨折してリハビリのために入った施設で祖母も、その施設で働いている人も楽しそうに見えなくて、次第に「こんな施設を造って、大切な税金を使って、何やってるんだよ!」と怒りに変わったんです。それと介護施設って、高齢の人々ばかりを集めていますが、それって実は不自然じゃないかと思うんです。
前野 なぜですか?
栗原 世の中はいろんな世代の人が集まって、楽しく助けあって生きていくのが本来の姿なのに、老人だけを1カ所に囲うように集めるのは変じゃないかと。
前野 「高齢者のための介護施設を造ろう」というのは悪いことではないけれど、楽しさのような全体発想が抜けているということかな。しかも、普通の人はそれを当然と思ってしまう。
栗原 だから僕は新しい地域コミュニティーをつくりたいと思いました。それは介護だけではなく、子育てや高齢者の知恵の伝承、高齢者同士の助け合いも含めて、昔だったら当たり前の、地域、家族含めてみんなが助け合いの中で行われる、「当たり前の世の中」です。勝手に誰かが決めた今の仕組み上にある老人ホームやデイサービスをぶち壊したい。それは障害者向けの施設も含めてですけどね。
前野 すばらしい。
栗原 そのプロトタイプとして、「どういう状態が1番楽しそうかな」と考えたときに、「みんなでハワイに行って、介護フラを踊るのがいいんじゃないか」と。
前野 「介護フラ」とは?
栗原 高齢者や車いすの方、お子さんなどで踊るフラダンスです。
前野 その「介護フラ」の発想は、突然湧いてきたの?
栗原 ハワイを先に思いつきました。
前野 フラはハワイの踊りだものね。
栗原 祖母が骨折をしたときに「がんばってリハビリをしよう」と話すと、「歳だし、もうすぐ死ぬんだし、もういいよ」と言うんです。たまには「よし、がんばろう」という日もあるものの、次の日は「もういい」と言う。そんな祖母を見ながら、「祖母にとって夢や希望とは何だろう」と考えたとき、祖母の若い頃を思いました。
高齢者の若い頃の憧れの国はたぶんハワイだったのではないか。「トリスを飲んでハワイに行こう」「憧れのハワイ航路」などがありますよね。ならば、その若い頃の夢や希望をもう1度提示することで若返るのではないかと思いました。だから新しく始めるデイサービス施設のコンセプトはハワイにしようと決めました。でも、ハワイだけでは少し弱いと思いまして、いろいろと調べている中でフラの奥深さを知り、取り入れました。
前野 フラっていろいろな意味が踊りの中にあるそうですね。