―― 前回から前野教授にイノベーションについて、お話を聞いているわけですが、教授が「イノベーション」という言葉を意識したのはいつですか。
前野 イノベーションという言葉よりは、むしろ「創造」、つまり新しいものを作り出すクリエーションにずっと興味をもっていました。大学生のころからですね。
―― クリエーションですか。
前野 ええ。「イノベーション」は、我々のようなエンジニアにとって、かなり古臭い印象の言葉でした。だから、創造的というか、「世の中に唯一のものを開発しなければ」と学生のころからずっと思っていました。
―― そう思うキッカケは、何かあったのですか。
前野 僕は東京工業大学の出身なんですけど、大学でロボット工学を研究なさっていた森政弘先生(同大学名誉教授)が講義で「非まじめのすすめ」ということをおっしゃっていたんですよ。
「不まじめはダメだけれども、まじめに与えられたことをやっているのではなくて、『非・まじめ』という生き方が大事なんだ」と。
これは今でいうところのイノベーション的な発想につながっていますよね。創造性と共に枠をはみ出ることが大切ということです。
学生時代の僕は「イノベーション」という言葉を使っていなかったけれども、「非まじめ」や「創造」「自分らしく生きる」ということをすごく気にしながら森先生の講義を聴いていました。「鶏口牛後」と言えばいいのでしょうか。「小さくてもいいから、人がやっていないことをやってトップになりなさい」という言葉が心に響いたんです。