慶應義塾大学大学院の前野隆司教授が語る「イノベーション論」の後編。今回は、日常業務でのヒントや考え方など、「誰もがイノベーションを起こせる」を身近な例で説明している。組織の中で活躍するエンジニアが今日から使えるノウハウの中には「愛される変人であれ」とのアドバイスも。企業で開発を手掛けた経験を持つ前野教授ならではの現場エンジニア視点でイノベーションをひも解いていく。(聞き手は、市川 智子)

―― 前回から前野教授にイノベーションについて、お話を聞いているわけですが、教授が「イノベーション」という言葉を意識したのはいつですか。

前野 イノベーションという言葉よりは、むしろ「創造」、つまり新しいものを作り出すクリエーションにずっと興味をもっていました。大学生のころからですね。

―― クリエーションですか。

前野 ええ。「イノベーション」は、我々のようなエンジニアにとって、かなり古臭い印象の言葉でした。だから、創造的というか、「世の中に唯一のものを開発しなければ」と学生のころからずっと思っていました。

前野 隆司(まえの・たかし)<br>慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授(写真:加藤 康)
前野 隆司(まえの・たかし)
慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授(写真:加藤 康)
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―― そう思うキッカケは、何かあったのですか。

前野 僕は東京工業大学の出身なんですけど、大学でロボット工学を研究なさっていた森政弘先生(同大学名誉教授)が講義で「非まじめのすすめ」ということをおっしゃっていたんですよ。

 「不まじめはダメだけれども、まじめに与えられたことをやっているのではなくて、『非・まじめ』という生き方が大事なんだ」と。

 これは今でいうところのイノベーション的な発想につながっていますよね。創造性と共に枠をはみ出ることが大切ということです。

 学生時代の僕は「イノベーション」という言葉を使っていなかったけれども、「非まじめ」や「創造」「自分らしく生きる」ということをすごく気にしながら森先生の講義を聴いていました。「鶏口牛後」と言えばいいのでしょうか。「小さくてもいいから、人がやっていないことをやってトップになりなさい」という言葉が心に響いたんです。