前野 僕は、決して嫌でメーカーのエンジニアを辞めて大学に移ったわけではありません。今でも、エンジニア的なマインドを持っていると思いますし、それがいつの間にか広がって「幸福学」の研究につながっている。その点、通訳としては最適ではないかと(笑)。
―― 教授が考える「エンジニア的マインド」とは、具体的にどういったものでしょう。
前野 本来の意味とは違うかもしれませんが、エンジニアと科学者には決定的に異なる点があります。エンジニアは、技術の詳細に深く入っていくと同時に、最終的には開発した技術を製品やサービスにつなげ、世の中の役に立つものに仕上げなければなりません。だから、「部分を見る力」と「全体を見る力」のバランスに長けている。「アナリシス」と「シンセシス」のバランスと言ってもいいでしょう。
このバランスこそが「エンジニア的マインド」だと思います。エンジニアは世の中では技術オタクのように思われているかもしれないけれど、本来はそうではありません。二つの力のうち、全体を見る力が広がっていくと、「幸せ」だったり、「イノベーション」だったりにたどり着くわけです。
つまり、エンジニア的マインドを持つ人は、「オタクっぽい気持ち」と「世の中に役に立とう思う気持ち」の両方を兼ね備えたとてもバランスがいい人材を意味します。専門家になりすぎている人たちが全体観を持って、課長のように、部長のように、社長のように、あるいは消費者のように、もっと言えば神のように世界を見渡す視点を持つと、エンジニアとして、さらに一皮むけることができる。次回からは、そのためのヒントをイノベーターたちの言葉から探り出していこうと思っています。