―― これから「イノベーション」をテーマにしたコラムを前野教授にお願いするわけですが、なかなか難しいテーマです。だって、イノベーションって、いかにもすごそうじゃないですか。そもそも前野教授にとってイノベーションとは何ですか?
前野 僕は「どんな仕事でもイノベーションは起こせる」と思っているんです。もっと言えば、どんな仕事でも「もっとこうしたらいい」という答えを突き詰めていくことで、「イノベーションは、誰でも起こせる」と。
―― 誰でも、ですか?
前野 そうです。僕が考えているイノベーションは、世界を変えるような最先端の取り組みに限ったことではありません。誰でも思いつくような日常生活の中の疑問に隠れていて、何らかの変化をもたらすものはすべてイノベーションと考えています。
「既存のものと似ているものはイノベーションではない」と著書*1には書きましたが、その結果が億単位の年収を稼ぐような大きなものでも、目の前の仕事を工夫してボーナスが5000円増える程度でも、どちらもイノベーションなのだと最近は思っています。
「誰でも思いつくような疑問」は文字通り、誰でも思いつくわけですけれど、ついつい社会常識の枠に当てはめて、自分の殻で閉ざしてしまいがちです。それがイノベーション的発想を阻害しています。
例えば、いろいろな動物の能力を測るために「この木に最も速く登った動物が1等賞です」というテストだけで判断するのはおかしいですよね。クジラは負けて、サルが勝つという結果になります。このテストは平等ではありません。
日常生活における競争は、このテストと同じようになってしまっています。つまり、本当はイノベーティブに発想できるのに、周囲がそれを許していないと多くの人が思い込んでいる。