慶應義塾大学大学院の前野隆司教授とホッピービバレッジの石渡美奈社長による対談の最終回。社員と組織の質をいかに高めるか。そのカギを「森を用いた人材育成」に見出した石渡社長は、「調和型」の経営スタイルに大きく舵を切っている。ただ、企業文化を大きく変える取り組みの一方で、企業として変えてはいけない部分があると話す。商品に先端技術を積極的に取り入れながら、世の中に変わったと気づかせない。そこに隠れた「不易流行」のバランスとは。

また面白いことを見つけた

前野 ついに赤坂の本社に「森の家」を作ったんだって?

会社の中に森の部屋を作った(写真:ホッピービバレッジ)
会社の中に森の部屋を作った(写真:ホッピービバレッジ)
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石渡 そうしょっちゅう社員と森には行けないので、森を思い出せるような、森の香りがする、森を彷彿とさせる部屋を作りました*1。木を切り出して皮を剥いで製材するところから壁塗りまで社員でやったんです。その部屋での対話は普通の事務所でやるのとは違うと思い、森をマネジメントに取り入れてみました。

*1 「森」とは何か疑問に思った方は、前回コラム「イノベーションの神髄は『森』にあり」を参照。

前野 確かに興味深い取り組みで、新しいことをしてきた家系がまた面白いことを見つけちゃったということですね。商品のイノベーションから個人が自分自身をイノベーティブにする方向に時代が変わってきたと話していました。それは、イノベーティブな行動ができるようになると本当にやりたいことができるから、自然といい商品ができるということでしたよね。

石渡 ええ。心が開放されて自分の中で改革が起こるので、今まで考えたこともなかったことに自分でも気付くようになるし、ほかの人からも入ってきますから。

前野 でもね、ホッピービバレッジは、おじいさん(創業者の石渡秀氏)の時代から社長がリーダーシップで引っ張ってきた会社*2でしょう? なぜ、社員をイノベーティブにした方がいいと思ったんですか。

石渡 私自身は小学生のころから「1番じゃないと気が済まない」という性格ですし、「常に自分が変わっていかないと世の中についていけない。取り残される。生きていて面白くない」と思って生きてきました。だから、私の中では常に勉強したり、「イノベーティブな発想をしよう」と考えたりすることは当たり前の話なんです。

 ある場所にとどまってしまったら、それは現状維持にもならず、退くことにつながります。常に大なり小なりのイノベーションを起こして、学び続けなければなりません。経営トップだけではなく、社員にも少しずつ同じような発想をしていってほしいと思いました*3

前野 軍隊的な「コマンド&コントロール型」から「調和型」の経営へと変えていきたいということですね。確かに、時代はその方向に動いています。