IoTプロジェクトを実践する野々上 仁氏(ヴェルト 代表取締役 CEO)と、「デザインマネジメント」を標榜する田子學氏による対談の第3回。前回は、「人をさりげなく助ける」というIoTのあるべき姿について議論が交わされた。
最終回となる今回は、アナログとデジタルの融合というテーマに進んだ。“デジタル疲れ”の兆候が見られる現代において、いかにアナログな要素を生かすか。そのためにIoTで何ができるのか。(進行・構成は高野 敦)
――田子さんは、慶応義塾大学大学院のシステムデザイン・マネジメント(SDM)研究科や母校の東京造形大学などで教鞭を執られているわけですが、そこで接している学生たちはこういった状況をどう見ているのでしょうか。
田子 SDMの方は社会人も多いので、どうしても現実にとらわれている人もいれば、その現実から打破しようと学びに来ている人もいます。一方、東京造形大のようないわゆる美大の学生たちは、意外と原点回帰といいますか、テクノロジーをそれほど意識していません。デジタルネイティブといっていいのかどうか分かりませんが、IoTなんかもあって当たり前ぐらいに思っているわけです。例えば、プロダクトデザインの学科で課題を出すと、アプリを平気で出してきます(笑)。それをプロダクトデザインというかどうかはともかく、時代が変わるというのはこういうことだなと分かりました。
――リアルなものを作るというイメージでしたが、最近はそうでもないと。
野々上 造形だから、形を造るわけでしょ。だけど形のないアプリになるのですか。
田子 そう。だけど、そこからプロダクトを起こすとどうなるかという発想する学生もいるわけです。だからそれはすごく面白い。僕が教えているのはデザインマネジメントですが、途中でどういうメディアを経由していようが、最終的にユーザーとコミュニケーションを取れていればいいのであって、そういう意味では本質を見ているわけです。インターネットはインフラになっているから、あえてIoTという言葉は使っていないかもしれないけど。
野々上 最近はAI(人工知能)などもそうですが、大々的に取り上げてもらうためにやっているというのは多い気がしますね。あとは、上の方から「うちはどうなっているんだ」と言われるケースも。
――それは、野々上さんが本で指摘した、IoTディレクターが直面する悩みの1つですね。
野々上 そういう話は絶対に経営から出てくるでしょうし、経営者は投資家から同じことを言われているわけです。
それはそうだとしても、企業として何を提供していくのかというところを突き詰めないと全く意味がないと本(『サービスのためのIoTプロダクトのつくり方』)では書きました。何のためにやるかいうことですよね。IoTのためにやるのかと(笑)。
一方で、IoTだから何でもデジタルかというと、そうでもないのかなと思います。最近は、レトロな雰囲気の中で真空管アンプでレコードを聴きながらいい酒を飲むなんていうことに魅力を感じている自分がいるという(笑)。そんな時代に使ってもらえるIoTといいますか、アナログの良さを味わいながら使えるIoTということをすごく考えますね。
やっぱりデジタル疲れみたいなものがあると思うんです。これはヴェルトのコンセプトでもありますけど、アナログとデジタルをブレンドして、みんなが自然に使えるようにしていきたいなと。田子さんが最近関わった「MGVs(マグヴィス)」*は、最先端テクノロジーの会社によるワイナリーという意味で融合と言えますよね。