野々上 やっぱり、IoTでデータを吸い上げるとなったときに、その利便性をどうユーザーに返すかというのが重要です。一時期、リストバンド型の機器がすごくもてはやされましたよね。確かにデータはたまりますが、「So what?」と思うわけです。だから何ですかという話になってしまって、それを身に着けることで自分の何かが改善されているとか、こういうふうにしたら改善されるという気付きがないのです。ヴェルトがそこまでできているのかと聞かれると、まだまだできていない部分も多いので、今後の大きなテーマです。
田子 利便性を体感できるという意味では、IoTというシンプルな解決策で僕がいいなと思ったのは「Amazon Dash Button」(米Amazon.com社)ですね。あれのどこが良いかというと、これまでAmazonの買い物というのは、PCにせよスマートフォンにせよ、ブラウザーの画面を立ち上げることが前提になっていたわけです。ティッシュ1箱を買うにしても、そこで探して買うという一手間をかけなければならない。それがアプリになって少し工程をはしょれるようになり、今度はボタンを1回押せばいいというところまで短縮してしまった!
野々上 そういう意味では、トイレで水を流すボタンの横にトイレットペーパーのAmazon Dash Buttonがあってもいいわけですよね。
――IoTで生活を変えたというものがなかなか出てこないのは、人の利便性を高めるという体験の作り込みが弱いのでしょうか。
田子 そうですね。自分がどんな恩恵が受けられるのかというエクスペリエンスの問題と、あとは“IoTスタイル”みたいなものに縛られている感があるんですよね。プロダクトを見たときに、「これIoTっぽくないよね」と言っちゃう人がいるじゃないですか。
野々上 どこがIoTなんだ、と(笑)。
田子 何度も言ってきたように、見た目は自然で何も変わっていないけどIoT化しているというのが大事なんです。だけど、「いやいや、IoTでお金を取りたいから、スペシャルな感じにしてよ」みたいなことを言う人たちがたぶんいるんだと思います。そして、それで困ってしまっているデザイナーというのも結構いるはずです(笑)。
野々上 やっぱりデザインをやっていると、そういう「IoTっぽくしてくれ」みたいな依頼は多いのですか?