今回は、IoTの本質に入り込む。テクノロジーやシステムがIoTで必要以上に目立つ風潮に異を唱え、「人をさりげなく助ける」というIoTのあるべき姿を提示する。(進行・構成は高野 敦)
――『デザインマネジメント』の出版が3年ぐらい前で、それから田子さんもいろいろとIoT絡みのプロジェクトに関わってこられたと思うのですが、それらはどう見えているのでしょうか。
田子 既存のものをIoT化していくという視点ですと、既にIoT化されたものよりもまだされていないものの方が圧倒的に多いので、市場としてはすごく大きいと思います。ただ、野々上さんが指摘されたように、作り手の意思というか考え方が問題になるんです。IoTがこっそり入っているというのが重要で、もっと自然にIoTを意識させない方がいいはずです。IoTという言葉は独り歩きしがちで、“IoTスタイル”みたいになってしまうこともあるのですが…。
例えば、IoTという言葉が出始めた頃に僕がすごいなと思ったのは、Philips社の「Hue」というIoT照明、要するに電球です。電球にIoTという発想に行き着いたのも面白いですけど、だからといって奇抜なデザインをしているわけでもないのです。Hueの場合、IoTで演出が変わるとか、インターネットにつながることによって電球のあり方を再定義しているところが本質なんですね。それをまかり間違って、“IoTスタイル”などと言って、プロダクトとしてのスタイルをこねくり回しちゃうと意味を成さなくなります。
医療機器などでも、例えば心臓モニターというのがありますが、今までは大きいので体の外に着けていて、データを吸い上げるときにはボタンを押さなければならなかった。それが最近は小型化が進んだので、体の中に埋め込めるようになってきて、しかも就寝前に1日のデータを自動で吸い上げてくれます。これだったら、ユーザーに負担がかかりません。
野々上 素晴らしいですね。
田子 これがIoTのあるべき姿なのかなと思っています。
野々上 ボタンを押し忘れてデータを残せなかったなんてことになると、すごいストレスですからね。
田子 ミスしないでくださいというのではなく、ミスしてもケアしてくれる仕組みであるとか、データをきちんとストックしていることを担保しているというのが、隠れた存在としてのIoTの役割ではないかと。もちろんそういったデータが知らないうちに抜き取られるのはどうなのかという議論もあるわけですが、そこは回り回って自分の利益になっているかどうかがとても重要だと思います。企業のロジックだけではなく、人のためにやっているんだよというのが。
最近はオフィスのセキュリティーが厳しくなっていて、お客さんがトイレに行くにもカードを借りてピッとやらないと戻ってこられないことがよくあります。これもすごくつまらない話で、要するにビル側のロジックにはまってしまっているわけです。人を中心に考える、つまり人がどの範囲で動けるようにすればいいかということをきちんとマネジメントすれば、それはIoTで解決できることはいくらでもありますよね。
――IoTというとシステムの話になりがちですが、システムばかり見ているから逆に使いにくくなっているということなのでしょうか。